日本語教室番外編

「日本語教室番外編 カラダで知るニッポン」①企画編

 オンライン芸能村村人の曽和聖大郎です。

 「オンライン芸能村」というのは、民俗学者の神野知恵さんが村長となって、立ち上げたオンライン講座で繋がった人々によるコミュニティーです。芸能についての企画をやるならまずコミュニティーを作りたい。けれど、あいにくこのコロナ禍のご時世では直接会って関係を深めていくようなことは困難なので、オンラインに頼らざるを得ない。でもどうせやるなら“村”だね、と。なかなか面白い趣向じゃありませんか。

 昨年10月に行われた、このオンライン芸能村の4回のZoomレクチャー(“Zoom寄合”とか呼んだ方が村っぽい?)を通して、様々な地域に根付いた芸能のお話を聞かせていただきました。それらの芸能は、しばしば「郷土芸能」や「地域芸能」」などと呼ばれるものですが、都市化して定型の舞台で演じられるようになっていった能楽や歌舞伎とは違い、各地域の共同体を基盤として伝承されてきたものですから、土地と切り離せないものなのですね。

 それゆえにやはり多くの郷土芸能の現場において、その基盤となる地域社会そのものの存続の危機と、それに伴った継承者の不足、世代間の文化共有の難しさなど、”伝承”における様々な課題が存在するという状況があるのでした。

オンライン芸能村の概要を説明する神野知恵さん

技能実習制度と郷土芸能

 都会で暮らしているとあまり身近に感じませんが、考えてみると、人口の減少によって引き起こされているこのような課題は、こと芸能に限った話ではなく、文化、産業、生活ひっくるめた日本という国全体が抱えている問題でもあるのですよね。

そこで、今回のレクチャーにゲスト講師として参加していたハブヒロシくんが携わっている岡山県高梁市の「多文化共生事業」のことが、ふと頭に浮かんだのでした。

 ハブくんは東京で太鼓などをやっている人間でしたが、2017年に岡山県高梁市へ「地域おこし隊員」として赴任。昨年度で隊の活動を満了したのち、岡山県高梁市の「多文化共生事業」に携わるようになりました。その中で、「外国人技能実習制度」によって高梁市に移住した技能実習生のための日本語教室を、ハブくんが講師となって行っているとのことでした。

オンライン芸能村で高梁市の芸能「長蔵音頭」を教えるハブヒロシくん

 「外国人技能実習生度」というのは、外国から技術を学びながら働きたい人を募り、技能実習生として日本の企業で働いてもらうことで、受け入れ先の企業に労働力として寄与してもらいつつ、技能を習得して母国に持ち帰ってもらおうという制度です。

                   

・JITCO 公益財団法人 国際人材協力機構 HP

                   

 高梁市は、自動車部品などの製造工場が多いため、岡山県下でも最も技能実習生の人数が多いそうで、現在はベトナムから来られている方が多いとのことです。

 ハブくんの日本語教室は週一回。受け入れ先の企業によっては残業や夜勤があるため毎回は来られない方もおられるそうですが、参加者は平均して5〜8名ほど。

 「外国人技能実習生度」は、本来であれば企業にとっても技能実習生にとってwin-winな制度であるべきということなのですが、現状はやはり課題も多いようです。

 慣れない日本の環境での労働ということもありますし、行動の自由にも制限がありますので、日本人はもとより他の実習生と交流する機会にも恵まれない生活を送っている方も多いといいます。

 技能実習生が日本に滞在して実習を続けていくためには「日本語能力検定」を受験していかなければないので、日本語学習の場が必用になってきます。日本語教室は、もちろんそのニーズを満たすためのものですが、加えて普段集まる機会の少ない技能実習生たちが憩う場としても機能しているのです。 多くの地域では、こういった日本語教室は有志のボランティアやNPOによって行われているようですが、高梁市の場合は試験的に「多文化共生事業」の一環として実施しているということです。

高梁市の日本語教室の様子(写真提供:わーるどたかはし)
カフェで日本語をレクチャーするハブヒロシ君(写真提供:わーるどたかはし)

 若者の労働力が不足していく一方の日本では、これから将来、多くの外国人労働者を受け入れて、その力に頼っていかなくてはならないことは火を見るより明らかですよね。

 「外国人技能実習制度」は、まさにそういった来るべき現実そのものでもあるように思います。これからの未来の地域の生活、産業、文化はこれらの人々と共に紡いでいかなければならないものなのですね。

 つまりこれは、”移民”について考えることとも言えるのですが、古くから移民との共生について考えざるを得なかったヨーロッパやアメリカなどとは違って、島国の日本は今まで”移民”について考える機会をほとんど持ちえてきませんでした。

 技能を学ぶために日本に移住し、やがて母国に帰る実習生たちは、もちろん単なる労働力ではなく、技能と共に文化を運ぶ重要な使者と捉えられなくてはならないのではないではないかとも思うのです。

 どうでしょう?「郷土芸能」と「外国人技能実習制度」。

 世代間の伝承の難しさ、生活様式が変わっていく中で、芸能の精神性や必要性をどう維持していったらいいか?どう伝えていったらいいのか?そういった「郷土芸能」の抱えている課題と、「外国人技能実習制度」における人的交流の現状とが、コインの表と裏のようにも思えてきませんでしょうか?

 オンライン芸能村の企画として、この2つの現場をオンラインで繋いで、ワークショップを行ったらどうか?というアイデアが生まれてきたわけです。

 ただ、そういったアイデアをいざ実行しようとすると、とんでもなく大変だった…という話は次回日本語教室番外編 カラダで知るニッポン」②準備編で。(つづく)