東京音楽大学にようこそ。新たに学長を拝命した野平一郎です。
音楽を学ぶことは、他のどの学問や芸術の他の表現領域と同様、長い道のりです。それは皆さんが生きていくこととほとんど同じことだと言えます。それだけ奥が深い分野だとも言えるでしょう。そしてその道のりは決して平坦ではありません。多くの変更や取捨選択を強いられるかもしれません。そうしたことを乗り越えながら、私たちは真の音楽家へと育っていきます。

音楽では、演奏、創作、研究、このどの分野においても過去を学び、現在を生きつつ、未来を切り拓こうと努力します。音楽に限らず現在の世界は、過去の蓄積の上に成り立っているわけですが、一方で大変多様な顔を持っています。そうした音楽の「今」を生き抜いていくためにも、また未来を見据えて活動を継続していくためにも、まず人間としての総合的な力、基礎的な力を十分に蓄えてください。そして知力とともに鋭い感性を身につけてください。
皆さんが本学で学ぶ時期は、人間にとって一番物事が「身につく」時期です。この時期に学んだことは、おそらく一生忘れませんし、皆さんの基礎を形作り、これからの生活をずっとサポートしていくこととなるでしょう。

創造的な活動を行なっていくためには、健康でいること、健全な精神を持っていることもとても重要なことです。何よりも、まず皆さんが今考えていること、やりたいことを素直にぶつけてください。そこに蓄えている若いエネルギー、情熱を存分に注いでください。それが「マル」と出るのか、「バツ」と出るのか、まずはやってみなければ分かりませんし、どちらにしても自ずと道が切り開かれて行くはずです。書物からの知識も大変重要ですが、経験すること、そしてその経験から学んでいくことも、それと同等に重要なことでしょう。もし皆さんが音楽の学習を通じて今後より幅広い社会へと飛び立っていくとしても、以上のことはとても大切なのです。

東京音楽大学で、ぜひすてきなキャンパスライフを楽しんでいただけたらと思います。すばらしい先生方のレッスンと同時に、音楽の専門だけにとどまらない多種多様な授業も用意されています。自分の専攻以外のことを知るすばらしいチャンスにもなりますし、国際的な感覚もぜひ磨いてください。大学、そしてキャンパスは「出会いの場」、また他者との「対話の場」でもあります。そしてなによりも、皆さんが新たな可能性を発見する場でもあります。お友達もいっぱいできて、ネットワークが築かれ、社会とのコンタクトも持たれることでしょう。
ぜひ本学で、人間として、そして音楽家としての力を存分に高めていってほしいと願っております。

東京音楽大学学長　野平 一郎