2025年4月26日(土)と27日(日)に、広上 淳一先生の指揮、高島 勲先生の演出で、日本フィルハーモニー交響楽団と東京音楽大学の合唱による《仮面舞踏会》が上演されます。これに先立ち、日本フィルハーモニー交響楽団と共催で特別公開講座が開催されました。
《仮面舞踏会》は、「1792年にスウェーデン国王のグスタフ3世が仮面舞踏会で狙撃され、13日後に死亡した」という史実に基づいたオペラです。
そこで、舞台となったスウェーデンや主人公となるグスタフ3世について、とりわけ彼が死に至るまでの経緯や彼が抱えていたコンプレックスなどを、本学名誉教授で北欧近代史を専門とされている本間 睛樹先生に詳しくお話しいただきました。
また、今回上演されるボストン版《仮面舞踏会》の音楽的な特徴や聴きどころについて、広上 淳一先生や高島 勲先生に熱く語っていただきました。
講座終了後には、東京音楽大学在学中で合唱の授業を受けており、《仮面舞踏会》に出演予定の作曲指揮専攻4年の藤田 碧都さん、大学院修士課程声楽専攻2年の立道 侑也さんのおふたりにコメントをいただきました。
講師:広上 淳一(指揮者/東京音楽大学教授)、高島 勲(演出家/東京音楽大学特別招聘講師)、本間 睛樹(東京音楽大学名誉教授)
共催:公益財団法人 日本フィルハーモニー交響楽団
進行:及川 ひろか(日本フィルハーモニー交響楽団 企画制作部)
― 本日の2時間にわたるプログラムを振り返ってどうでしたか?
藤田さん:合唱の授業の中で音楽のことは学びますが、台本や初演までの経緯、ボストン版が生まれた背景なども含めてきちんと理解できていなかったので、こういう機会はすごくありがたく、勉強になりました。
立道さん:オペラ一本を合唱で勉強するといっても、合唱は出番が限られているので、大まかなストーリーを知っている学生もいれば知らない学生もいます。今日の講座では、大まかなあらすじから説明があり、実際に起きた史実をもとに作られたお話ということで、流れが分かり、作品の理解が深まったと思います。
― 今回は“史実に基づく”ということがひとつのキーワードだったと思います。北欧近代史がご専門である東京音楽大学名誉教授の本間 睛樹先生のお話も伺いましたが、史実にあたるところで特に印象に残ったお話はありますか?
藤田さん:リッカルドのモデルであるグスタフ3世は同性愛者であった可能性があり、同性愛の相手がオスカルという演出をすることもあるといったお話はすごく興味深いなと思いました。同性愛者ということを知らなければ、「なぜこういう演出なのだろう?」と悩むと思うので、知ることができてよかったです。それから、史実とオペラで異なるところ(例えば、オペラでは拳銃ではなく短剣で殺されるなど)を紹介していただけたのは面白かったです。
立道さん:僕も、グスタフ3世の人物像に関するお話が特に印象に残っています。オペラの登場人物は、結構脚色されていて、特にリッカルドの場合はテノールということもあり、ヒーローのような格好良い人というイメージですが、もちろん王様ですけど、意外と身長が低かったり同性愛者である可能性があったりと人間臭いところもあって、オペラだけでは分からない一面を今回知ることができました。こうしたことをもとに作品ができ、“仮面”というテーマの裏にある“人間の業”なんていうお話もありましたが、今回のお話を聞いて、リッカルドのその仮面の奥がちょっと見えてきたのかなと思います。僕はテノールなのでリッカルドの取り巻きとしての役柄ですが、いち個人として作品を見た時に、また新しいリッカルドを見つけることができるのではないかなと思います。
― いよいよ4月末には日本フィルハーモニー交響楽団の皆さんと共演します。そこに向かって今回糧になることが多くあったと思いますが、「こういう本番になったらいいな」ということがあれば教えてください。また、合唱を通じてプロのオーケストラと共演するのは貴重な経験だと思いますが、特にオペラに挑戦するということで意気込みや今の気持ちを教えてください。
藤田さん:プロのオーケストラと共演できる機会は少なく、特にオペラというのはなかなかないので、とても楽しみです。
立道さん:僕たち学生はまだ発展途上ですので、荒い部分はたくさんあると思います。さきほどの話にも繋がりますが、役を演じるというよりかは、いち個人として、『仮面舞踏会』という作品の登場人物、主要なキャストを見ていきたいという気持ちが強いです。出番も多く、難しい作品ではありますが、その分やりがいもある。今日の講座の中では演出のお話もあったので、僕たちも何かしら動きがつくことになると思います。演出家やマエストロ、そして僕たちが見ているそれぞれのキャラクターの特徴、いろんな見え方があると思いますが、そうした違いも楽しめたらいいなと思います。もちろん必死に頑張りたいと思っています。
― 大学でオペラを勉強しているおふたりですので、今回の共演がこれまでの学修とリンクしたり、プラスになったりすればいいなと思いますが、おふたりが感じているオペラの難しさはありますか?
藤田さん:学生だけでオペラをやると、予算や時間が限られてきて、そういった中で道具や衣装、技術、照明、振り付け、場合によっては映像を取り入れるのは難しいのが正直なところです。ですが、今回は道具も使い、照明を用いてサントリーホールで演奏できることがとても楽しみです。
立道さん:オペラはひとりでは成り立たず、対話の中で生まれて、人と人との関わりの中で生まれます。特にそれがプロのオーケストラ付きとなると、主要なキャスト、演出家、マエストロそしてオーケストラ、それから僕たちコーラスも、すべてが重なり合って面白い化学反応が起こるのではないかと思います。ただ、そこに自分たちがどれだけ対応できるのか、それが難しいところではあります。ですが、それを乗り越えて、この一つの作品を作り上げるお手伝いができれば、とても価値のある経験になると思っています。
いよいよ本番に向けて大変な時期に入りましたが、一段とギアを上げてぜひ頑張ってください!