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新シリーズ【音楽学のススメ】~ 教員紹介編 ① 村田千尋教授

 「音楽学」という学問領域があるのをご存知でしょうか?さまざまな観点から音楽を研究する学問で、東京音楽大学では「西洋音楽史」、「オペラ史」、「管弦楽曲史」、「ピアノ音楽史」のほか、さらにテーマを絞って扱う「音楽学特講」など、多彩な授業が開講されています。これら音楽学の授業について、「演奏に必要な楽曲分析や演奏解釈に直結する有益な授業」と卒業生からも人気が高い。
 これからはじまる「音楽学のススメ」では、本学で音楽学を指導されている4名の専任教員に執筆を依頼しました。皆さんの音楽学習に役立つおもしろい「ネタ」を発信していただけることでしょう。まずは4名の先生方をご紹介してから連載がスタートします。どうぞご期待ください!

 
 一人目は、音楽学の主任教授村田千尋先生。東京大学文学部美学科、国立音楽大学大学院音楽学専攻で学び、弘前大学教育学部専任講師、北海道教育大学札幌校教授を経て現職。シューベルト、ライヒャルトを中心に、18・19世紀のドイツ・リートを研究すると共に音楽社会史、環境美学、近代日本音楽教育史などにも関心をもち、さらに、カリキュラムを構築する責任者として、大学における音楽の勉強方法、教育のあり方の研究にも長年携わってきました。

 

― 先生が音楽をはじめたきっかけを教えてください。

 

 音楽が好きで、5歳頃からピアノを習いはじめたのですが、練習が大嫌いで、小学校4年か5年の時にとうとう習いに行くのを止めてしまいました。ところが止めてみたら、やっぱりもう一回やりたいと思うようになって、親に「もう一度ピアノのレッスンに行きたい」と言ったんです。しかし、もっと私に勉強をがんばってほしい母に「大学に受かるまでピアノはダメ」と言い渡されてしまいました。

 

― その後、どうやって音楽の道へ進んだのでしょうか?

 

 ピアノのレッスンを止めた後も音楽が好きで、小中学校では音楽部に所属しました。高校に進学して、将来は数学か物理学の研究者になるとばかり思っていました。しかし、そうはいきませんでした。学芸大学附属高校はオペラも上演するような音楽が大変盛んな高校で、私も高校時代は音楽部の活動に明け暮れていました。そうしているうちに、音楽を専門に勉強したいと思うように。
 声楽か指揮、作曲を考えたこともありますけど、ピアノが自己流なので。進路を決める時に、東京大学で音楽を勉強できる美学科が文学部にあることを知り、進学しました。東京大学を卒業後、さらに専門性を高めたくて国立音楽大学大学院音楽学専攻に入り、音楽史を勉強しました。教員としては、青森県にある弘前大学教育学部、北海道教育大学を経て、2006年から東京音楽大学で教えています。


― 先生の研究テーマはなんですか?

 

 周りからよく「シューベルトの専門家」と言われます。著書はシューベルトに関するものが一番多いのは確かですが、シューベルトのすべてを知っているわけではありません。私が一番興味をもっているのは、「シューベルト」という人物ではなく、「シューベルトに至るまでのドイツ・リート」です。

 

― 「シューベルトに至るまで」とは?
 
 シューベルトのリートはどのようにして生まれたのかと言い換えた方がわかりやすいかもしれませんね。ところで音楽史というと、皆さん何を思い浮かべますか?バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンといった著名な作曲家がどんな名作を作ったのかでしょうか?でも、名作を並べただけでは、それは光り輝く断片でしかなく、音楽史とは言えません。
 たとえば、ベートーヴェンは交響曲を何曲作ったかと問われたら、番号をつけられたものが9曲でこれには異論はないでしょう。しかし、その9曲の評価、後世への影響はどのようなものかとなると議論はさまざまです。時代の中での変化の過程、つながりを考えるのが歴史。ここが重要です。
 1980年頃から、東京大学の1年先輩にあたる渡辺裕先生(2019年より本学音楽文化教育専攻教授)が音楽社会史を提唱されました。演奏者、聴衆、その反応、さらに社会においてどのように受け入れられ、もしくは拒絶されたのかなどを研究するのですが、私もこのような視点でドイツ・リートを研究しています。

 

― 先生の授業では情報量がすごく多くて、記録ノートが何冊にもなるとか。

 

 私の授業では、作曲家の名前、生没年、名作を覚えなくていいと学生たちに言っています。調べればすぐにわかること、覚えてもすぐに忘れることに労力を使うべきではないと考えるからです。それよりも、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンがシューベルト、シューマンに与えた影響、さらに後世へのつながりといった歴史の関連性を考えることが大切と教えています。試験では、自分の手で書いたものは持ち込みを許可していますが、他人の書いたものは勉強にならないから持ち込み不可にしています。覚えることよりも考えること。連載では、勉強方法を中心に皆さんにお話していきたいと考えています。

 

― 学生たちへメッセージをお願いします。
 

 自分の専門性に凝り固まらずに知的好奇心を発揮して、できるだけ興味の範囲を広げて、いろんなことにチャレンジしてほしい。私自身、絵や彫刻を見るのが大好きで月数回展覧会に行きます(今は控えていますけどね)。そこでいろいろな思いが湧いてきます。皆さんもぜひ、音楽だけではなく、文学や芸術、歴史、さらに音楽と関係が深い数学など、どんな分野でも食わず嫌いにならずに興味をもってください。


【本学での主な担当講座】
学部では、1年生全員が受講する「西洋音楽史概論」、「歌曲史」など音楽史にかかわるものを複数。さらに音楽学を深く勉強したい3、4年生の選抜された学生向けに開講されている音楽学課程では、論文指導なども担当。大学院修士課程では、修士論文指導をはじめ、「音楽学演習」や「特殊研究」。博士課程では、博士論文指導をはじめ、論文の中間発表、指導を行う全員必修の「総合演習」、教員と学生が自分の研究内容を発表し合う「共同研究」を担当。
 
(広報課)