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【私のお気に入りシリーズ 】第4回 本間 睛樹教授「アルソング・ポー・スカンセン(All sång på Skansen)〜スカンセンで一緒に歌おう~」

 

「私のお気に入り」を紹介するシリーズ。対象は、古今東西、ソフト・ハード、ミクロ・マクロを問わず、何らかの形で音楽に関わる事象すべて。さて何が飛び出すか?
4回目は教養教育の本間睛樹教授にお願いしました。

 
 

本間睛樹先生

 

『アルソング・ポー・スカンセン(All sång på Skansen)』

 
『アルソング・ポー・スカンセン(All sång på Skansen)』 ・・・スウェーデン語で「アルソング」は、”all”(すべて)と”sång”(歌)の合成語で、学校や教会、社会活動や労働運動の場で、あるいは特別の意味もなく集まっている人々が、全員で声をそろえて歌うという行為を指し、1920年代から盛んになってきていた。「スカンセン」は、ストックホルム郊外の町の東のはずれにある野外博物館、つまり広い敷地の中に古い建物や街並みを再現したテーマパークであり、南端の高台には「ソルリーデン」と呼ばれる野外ステージかある。そこがまさに舞台となる。   
 
 毎年夏の6~8月の7~8週間、火曜の夜8~9時に、スウェーデン・テレビ(SVT)の第一放送で放映される、視聴者参加の公開録画・録音の歌番組である。番組には毎回スウェーデン(たまには他国)の名だたる歌手が招かれ、その人たちのソロが披露された後、会場にいる聴衆全員が、より馴染みのある曲を斉唱し、こうしてソロと斉唱が交互に、一晩に計十数曲が演奏される。
 
 その晩歌われる曲の歌詞は、会場入り口で売っている小冊子に載っている。楽譜はついていないが、スウェーデン人なら一度くらいは聞いたことのありそうなポピュラーな曲ばかりだし、一度聞けばすぐ頭に入る程度の明解なメロディーラインの曲が主である。テレビ番組なので、視聴者のためには、画面の下端にテロップで歌詞が出る。
 
 ここ久しく、夏には実地調査や資料収集のため、必ずスウェーデンを訪れていた筆者(本間)にとっては、火曜日の夜にホテルのテレビをこの番組に合わせ、テレビと一緒に歌うのがささやかな旅の楽しみだった。火曜日の晩たまに外出していたり、早寝で熟睡していたとしても、その週の間は頻繁に再放送されるので、見逃すことは滅多になかった。 
 
 このステージを利用して最初のアルソングが行われたのは1935年であり、もちろん当時テレビ放送はなかったから、ラジオ番組であった。その後1951~55年と67~73年の間は中断されていたが、1974年以後は毎年欠かさず行われていて、79年からはテレビに移っている。1990年代後半から21世紀初頭にかけて、番組の人気は爆発的に上昇し、テレビでの視聴は3倍以上に増え、会場には毎回2万人以上が詰めかけるようになった。 
 
 イベント当日は早朝から入口に行列ができ、場所の取り合いのトラブルや混雑に伴う事故・急病も発生し、一時は継続が危ぶまれるまでになった。その後なんとか会場管理を徹底させて、混雑に対処できるようになり、番組は今も続いている。テレビ視聴専門の筆者も、2000年の8月1日、一度だけ会場へ乗り込んだことがある。 
 

▲ 会場の様子(ステージ写真ともに筆者撮影)
 
 朝からではないが、昼の2時頃に入場して辛うじてベンチ端の席を確保し、以後夕方からの前振り演奏からテレビ本番、その後のお別れ演奏まで付き合い、斉唱の時は精いっぱい声を張り上げ、夜10時頃ホテルに帰り着くと、満足感と疲労感からすぐに爆睡してしまった。 

 
 今年(2020年)はコロナのせいでスウェーデン行きは断念することになったが、スウェーデンでも春以来多くのイベントが中止または縮小を余儀なくされている。 
 
 アルソングはと言うと、会場にまったく聴衆を入れず、しかし放送だけはスカンセンから実施することになった。2008年以来ウェブ放映も行われているので、東京にいても視て聴くことができ、空っぽの会場での司会者や参加アーティストの奮闘ぶりに感動し、侘しい満足感を味わうことができた。
 
 コロナが終息したら、その次の夏は必ず・・・。 (完)
 
 

本間 睛樹(ほんま はるき)
1950年7月14日東京生まれ。青山学院大学文学部卒業。1979-1980年ストックホルム大学に公費留学。1983年文学博士の学位取得。1990年7月から東京音楽大学で教養教育に従事。専門は北欧近代史。

 
 

 
(広報課)