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新シリーズ【音楽学のススメ】~ 教員紹介編 ② 坂崎則子教授

 「演奏に必要な楽曲分析や演奏解釈に直結する有益な授業」と卒業生からも人気が高い音楽学の授業。新連載「音楽学のススメ」では、本学で音楽学を指導している4名の専任教員に執筆を依頼しました。皆さんの音楽学習に役立つおもしろい「ネタ」を発信していただけることでしょう。
 
 二人目の先生は、坂崎則子教授。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業。東京藝術大学大学院音楽研究科音楽学修了。西洋音楽史、美術史、ドイツリート、リュート音楽などを研究しています。本学付属図書館長などを歴任。

 

― 先生が音楽をはじめたきっかけを教えてください。

 

 3、4歳の頃、住んでいた公団に音楽の先生が引っ越してきて、ピアノが運び込まれていくのを見ました。幼心に当然のことながら「やってみたい!」となって習いはじめました。
 音楽が好きだったけれど、才能がないことには早くから気づいていました。それでも先生はずっと辛抱強く教えてくださいました。高校で進路を決める時、「音楽大学に行きたい!」と話したら、周りは困ったねという反応でした(苦笑)。音楽を学べるならどこでもいいと言いましたら、そんな私のために先生が調べてくださって、東京藝術大学楽理科に入学しました。 
 しかし、いざ入学してみると、優秀な学生ばかりでついていくのも大変。どん底に突き落とされたような気分でした。いかに自分が勉強していないのかがわかったのです。

 

― その後、東京音楽大学とのご縁はいつからですか?

 

 大学生の頃、東京音楽大学の付属図書館が開館し、大量の本を分類するためのアルバイトを募集していて、それが東京音大とのはじめてのご縁でした。
 図書館のご縁からやがて付属高校で音楽史を教えることになりました。まだ大学院生だった私にとって、教え子たちはまるで妹や弟のような存在でとにかくかわいかった。習ったばかりのことを教えるのですが、自分が苦しい経験をしていたので、彼らの気持ちがよくわかっていました。あの頃の譜例集やプリントは今でも私の宝物です。東京音大には1976年からお世話になっているので、人生のほとんどの時間をここで過ごしていますね。

 
― 先生の研究分野の中にリュートがありますが、それについて教えてください。

 

 リュートとの出会いは、東京音大の図書館でアルバイトしていた頃でした。アメリカから来た女性の英語講師のデボラ・ミンキン先生がリュートの弾き手でもあり、それがリュートを見た最初でしたね。その頃ちょうど古楽ブームで、B館スタジオでリュートのランチタイムコンサートなんかもやっていました。大学もリュートを買ってくれて、今も確か5台くらい所蔵していると思います。

 

 リュート音楽は、ルネサンス期からの音楽です。バロック音楽より後の音楽はかなり演奏されていて、音楽の先生たちもよくご存じだったりしますが、その前の音楽というと、昔の音楽だねというイメージしかないのではないでしょうか。しかし、リュート音楽を勉強していくと、バロック音楽につながっていくための重要な音楽だということがわかります。
 ピアノは19世紀頃から、ソロ演奏や伴奏、室内楽などありとあらゆるところに使われて、ベートーヴェンのような作曲家たちもピアノを使って作曲をしていましたね。リュートも実はそれと同じで、16世紀の頃、あらゆるジャンルにおいて演奏の源になっていたのです。

 

 リュートの楽譜は、ピアノよりも膨大な量が残されているのですが、五線譜ではなくタブラチュア譜で書かれているのが研究をする上で一番のネックになっています。指の位置が書かれているので、楽譜を見ただけでは五線譜のように直感的にどんな音楽かわからないのです。学生の頃からタブラチュア譜を五線譜に書き換えたりしていますが、これがなかなか難しい。リュート音楽の全貌は今に至るまでまだ解明されていませんが、私の研究も地味に地道に続けています。

 

― 古楽のどのようなところに惹かれたのでしょうか?
 
 そうですね、やっぱり音の質ですね。たとえば、昔のフルートのフラウト・トラヴェルソは、今のフルートより素朴ながらもすごく表現力のある響きです。リュートも同じです。不思議なことに、雨の日によく聴こえたりします。周りが静かだからでしょうね。今に比べて世の中が静かな頃の楽器だったので、音量は必要なかったのでしょう。弾きながらいつの間にか寝てしまうほど癒されます。(笑)
 

― 最後に学生にメッセージをお願いします。

 

 コロナ禍のために動画配信で授業を行っていて、学生の皆さんに会えないのが本当につらい。このような状況下ですが、学生の皆さんには、とにかくめげないでほしいと思います。音楽は、自分ひとりの世界でも楽しむことができます。私自身、これまで音楽のそばに居続けられたことが何よりもよかったことだと思っています。どんなにつらくても、音楽はいつも常に語り合える仲間としてそばにいてくれます。
 以前、あるピアノの学生さんがこんな話をしてくれました。大変厳しいと有名な先生のレッスンを受けて、レッスン中泣き出しそうになるのを必死に我慢して、池袋まで歩いて駅のホームで涙がどっと出たそうです。「先生を恨まない?」と聞いたら、そんなことは全然なくて、泣いたのは、「どうして先生をあんなに怒らせてしまったのか、怒らせないようにするためには練習するしかないと思ったから」と言うんですね。頭が下がる思いがして、今でもそのことを忘れられません。

 

 音大の学生は、自分に克つこと、自分に対峙していく強さをもっています。音大生というと、時々企業の方から、「お金持ちのお嬢さまなんでしょう」と言われますが、学生たちがどんなに苦労して練習時間を捻出しているかお伝えし、どんなに怒られてもめげない、音大生は強いですよと話すと、皆さんびっくりされて、「ぜひうちの企業に来てほしい」と言われます。
 ひとつのことにこれだけ打ち込んで、特技をもっているとそこからいろんなことを学びとれるようになります。それが音楽学への興味と結びついた時、ご自分の演奏の可能性も広がっていきますので、ぜひ音楽学課程に来てほしいと思います。

 
【本学での主な担当講座】
学部では、1年生全員が受講する「西洋音楽史概論」、2年以上からの「オペラ史」「音楽学特講」など。さらに音楽学を深く勉強したい3、4年生の選抜された学生向けに開講されている音楽学課程で、ゼミナールや原書講読を担当。大学院修士課程では、修士論文指導をはじめ、「音楽学演習」や「特殊研究」。博士課程では、博士論文指導をはじめ、論文の途中発表、指導を行う全員必修の「総合演習」、教員と学生が自分の研究内容を発表し合う「共同研究」を担当。
 
(広報課)