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新シリーズ【音楽学のススメ】~ 教員紹介編 ③ 武石みどり教授を掲載しました

 「演奏に必要な楽曲分析や演奏解釈に直結する有益な授業」と卒業生からも人気が高い音楽学の授業。新連載「音楽学のススメ」では、本学で音楽学を指導している4名の専任教員に執筆を依頼しました。皆さんの音楽学習に役立つおもしろい「ネタ」を発信していただけることでしょう。
 
 三人目は、本学の副学長でもある武石みどり教授。お茶の水女子大学文教育学部音楽科卒業、同大学院人文科学研究科舞踊教育学専攻音楽学、同大学院人間文化研究科(博士課程)修了。18世紀ウィーンの作曲家J.B.シェンクのジングシュピールに関する研究で博士号取得。その後、山田耕筰をはじめ明治以降の日本の洋楽導入についての資料研究を進めています。
 

― 音楽をはじめたきっかけを教えてください。

 

 幼稚園で習った歌を帰宅後におもちゃのピアノで弾いたようで、親がそれを見て感激して本物のピアノを買ってくれたのがはじまりです。4歳の頃でした。それから習い続けていましたが、中学の時から練習が嫌になってしまい、さらに大学では周りが競争するようにピアノを弾いているのを見て、自分には合わないんじゃないかと思うように。その頃、音楽学の授業を受けていて、音楽について調べる方が肌に合っていて楽しいと感じました。そういうわけで、4年生から本格的に音楽学の道に入っていきました。
 

― 音楽学をどのように勉強しましたか?

 

 お茶の水女子大学文教育学部音楽科の音楽学のゼミに所属していました。当時では珍しく、とにかく自主的な発表を重んじるゼミで、大変著名な先生なのでもっと講義してくれたらいいのにと思っていたくらい(笑)。
 授業では、私たち学生の発表に対して先生から、「これはどういう意味?」「どこからの情報?」「その情報の信憑性は?」といろいろ聞かれます。まだコピー機が普及していなかった時代で、授業の準備のために、あれこれ調べては手で書き写さなければなりませんでした。気になったところを1冊のノートにまとめていたのですが、先生から、「ただ内容を抜き出して集めればいいというものではない」と言われてしまいました。知識を漫然と集めるのではなく、自分の考えをまとめていくためのやり方、たとえば、A本はAのカード、B本はBのカードというように、知識を整理する「知的生産の技術」という考え方にはじめて触れました。知識を集めて、そして自分の考えをまとめるために、その知識をどのように構築していけばいいのかを実地から学ぶことができました。

 
― 調べものは主にどこで?

 

 音楽大学と違って、お茶の水女子大学の図書館には音楽蔵書がそれほど多くなく、よく国立音楽大学の図書館に行って調べものをしていました。大学院時代からは、東京音楽大学付属高等学校で西洋音楽史を教えていたので、こちらの付属図書館に通うようになりました。音楽大学の図書館は、一般大学の図書館と蔵書のそろい方から違うので、音楽関連の調べものには大変便利です。

 

― 先生の研究テーマを教えてください。
 
 最初はウィーン古典派が中心でした。卒業論文はモーツァルト、修士論文はハイドン、博士論文はJ.B.シェンクについてです。博士論文作成のためにウィーン楽友協会に行き、自筆楽譜のすかしや筆跡の研究をしていましたが、それを続けるためにはずっとウィーンにいなければいけないことと、ややマニアックな研究であるために、博士論文作成後も同じテーマで続けるか迷いを感じていました。博士号取得後、山田耕筰全集の編集者として校訂をやってみないかと声をかけられたのがきっかけとなって、山田耕筰の研究をはじめ、日本の洋楽導入に目を向けたのが1995年でした。
 

― 研究のおもしろさはどこにあるのでしょうか?

 

 研究の醍醐味というのは、新しい発見があるところだと思うんです。今まで書かれてきたことを繰り返すだけではおもしろくない。資料を見て、これまでの通説とは違うものを発見するのはわくわくする体験です。たとえば、山田耕筰は米国滞在中にカーネギーホールで2回演奏したことが偉業として讃えられてきました。しかし、当時のニューヨークの新聞を隈なく調べたところ、山田耕筰の名前が一向に出てこない。確かに2回の演奏会は実現したが、実は渡米時代の山田耕筰は大変な苦境にあったのではないか、そういう研究結果につながっていきました。著名な作曲家の自筆楽譜が見つかると我々が使っている楽譜と音が違っていたり、研究が進むにつれ、これまでの説が覆されることはよくあります。そこが研究のおもしろいところだと思います。
 学生にいつも言うのは、書いてあるものの受け売り、そのまま書き写すだけではだめだということ。調べものをする時は、その情報源はどこ、信頼できるものかどうかをまずしっかりと検証すること、確かな情報と不確かな情報を分けるところから学び、自分の考えを明確にしていってほしいと思います。

 
― 正しい方法で調べて自分の考えをまとめていくのが大事なんですね。
 
 小中高での勉強は、正解にたどり着くためのものでした。しかし、学問とは、正解を見つけるためのものではないのです。自分で考えて、新しい説を立てる、そのトレーニングをしていく場が大学です。大学に入学したら、自分で考え、発見したものを発信していくことに意識をシフトしていくことが大事です。
 これは、演奏実技においても同じことが言えると思います。どんなに著名な先生からアドヴァイスをもらっても、それに従うことだけをずっと続けていたら30歳、40歳になっても大きな発展はありません。レッスンで習わない曲でも自分なりに解釈できなければ自立した音楽家とは言えない。能動的に見つけること、自分で考えること。学問をする上でも演奏をする上でも大事なことではないでしょうか。

 

― 音楽学では何を学べますか?

 

 音楽学を勉強するのは、音楽学の論文を書くためだけではありません。楽曲分析や西洋音楽史など多くの学問が演奏の基礎となる力に直結します。
 これは私自身、ドイツ人の先生のピアノや指揮のレッスンの通訳をしていて気づかされたことですが、先生方の解釈の多くは感覚的なものではなく、「楽譜に書いてあること」に基づいて説明されていました。この譜面からどのような形式や作曲手法、そして時代様式が読み取れるか、それを見分けるために楽曲分析や西洋音楽史の知識が役立ちます。通訳をする上で、こうした知識が演奏の基礎になっていることをひしひしと感じました。
 音大での授業科目とどう取り組むかは自分次第。音楽学は単なる机上の学問ではなく、実技としっかり結びついています。音大生の皆さんにぜひこれを実感してほしい。音楽学を学ぶことにより確かな知識を身につけ、自分で考えながら演奏の工夫ができるようになっていってほしいです。

 
【本学での主な担当講座】
学部では、「音楽キャリア実習Ⅰ・Ⅱ」と「ミュージック・コミュニケーション講座A・B」、音楽学を深く勉強したい3、4年生の選抜学生向けに開講されている音楽学課程で「西洋音楽史演習A」と「論文作成」を担当。大学院修士課程では、修士論文指導と「音楽学演習C・D」。博士課程では、博士論文指導と「博士共同研究」を担当。

 
(広報課)