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【私のお気に入りシリーズ 】第5回 加納 里美教授 E.フンパーディンク作曲 オペラ『ヘンゼルとグレーテル』

 

「私のお気に入り」を紹介するシリーズ。対象は、古今東西、ソフト・ハード、ミクロ・マクロを問わず、何らかの形で音楽に関わる事象すべて。さて何が飛び出すか?
5回目は声楽専攻の加納里美主任教授にお願いしました。

 

加納里美先生

 

E. フンパーディンク作曲 オペラ『ヘンゼルとグレーテル』

 
 私の「お気に入り」のオペラです。   
 
 約30年前オペラデビューした後、2作目に『ヘンゼルとグレーテル』の「魔女」役をいただきました。それから二期会をはじめ、東急文化村、新国立劇場、日生劇場、文化庁の芸術体験劇場(旅公演)などのプロダクションで魔女やゲルトルート(お母さん)を歌い、演じてきました。出演回数は数えきれないほどで、私のオペラのレパートリーでは、最も多いと思います。
 
 最初に二期会で演出家の栗山昌良先生にみっちりとしごかれたのは、今にして思えば幸運でした。厳しい指導のおかげでそれが血となり肉となり確固とした基盤が築かれ、プロダクションが変わり、演出家が変わり、どんな変化球が来てもこの基盤の上で演じることができました。
 
 はじめてのオケ合わせの時に、ワーグナー譲りのぶ厚いオーケストラの音に驚きました。しかしオーケストラと戦うのではなく、豊かな響きの中で、声を出せばいいのだということを悟りました。  
 
 その後いくつか公演を重ねましたが、思い出深いのは1990年から1992年の東急文化村でしょうか。衣裳も舞台も豪華で、それが3年続いたのですから、楽しかったです。しかし冨田勲のシンセサイザーによるオペラははじめての体験で、指揮者はいない、歌はシンセサイザーのサウンドに合わせなければいけない・・・けっこうたいへんでした。  
 
 多くの公演の中には事件もあって、文化庁の旅公演の最終日に、魔女が乗るほうきに勢い余って指が当たり、爪が完全にはがれるという事故がありました。メイクを十分に落としきれずに医者に駆けこんだものですから、医師は開口一番「どうしたんですか、その顔は!」・・・それ以降爪は伸ばさないようにしました。  

 
 オペラのフィナーレでお父さんが子どもに再会し「苦しい時は、いつも神様が助けてくださる」(中山悌一・田中信昭:共訳)・・・と歌うところは ―これがまさにこのオペラのテーマですが― いつもいつも自分が出演者であることを忘れてジーンときて終わってしまいます。 
 
 
 
 この赤い靴は魔女の履物です。緒方規矩子さんのデザインによるもので、何年も続いた文化庁の旅公演のプロダクションが終わった時にいただいたものです。(大道具の「切株も」と言われましたが、さすがにそれはお断りしました)  
 
 体を使って舞台中を動きまわる魔女役は、もう私が演じることはないでしょう。しかし、この靴は大学院オペラで「ヘンゼルとグレーテル」の公演を行うときは、希望があれば(そして私の足より小さければ)大学院生に使ってもらい、いまだに現役で活躍しています。 
 
 「ヘンゼルとグレーテル」は日本でもっと上演されればいいですね。ヨーロッパでは、子どもも観ることができるメルヘン・オペラとしてクリスマスシーズンによく上演されます。
 冬の足音が聞こえる今日この頃、皆さんもCDでいいですから心温まる「ヘンゼルとグレーテル」を聴いてみてはいかがですか。

 

 

 
加納 里美(かのう さとみ)

東京音楽大学卒業。同研究科オペラコース修了。1986年、二期会公演「ワルキューレ」でオペラデビュー。以後、「椿姫」「魔笛」「フィガロの結婚」「ヘンゼルとグレーテル」「アイ一ダ」等に出演し、表情豊かな張りのある声で好評を博す。その後、東京フィルハーモニー交響楽団オペラコンチェルタンテ・シリーズ、新国立劇場、日生劇場等で多くのオペラに、また東宝「サウンド・オブ・ミュージック」、ホリプロ「12ヶ月のニーナ」のミュージカルに出演。東京音楽大学・大学院教授、東京音楽大学付属幼稚園園長、二期会会員。

 

 

 

 
(広報課)