2020.05.21
〈メッセージ全文〉
学生の皆さんの今の状態、心理状態や気持ちを想像すると、やはり一番さびしく思うのはキャンパス生活がはじまっていないこと。クラスメイト、同級生、大学の雰囲気、あちらこちらから音が溢れ出てくるような活気、コミュニケーションがどうしてもないので、その点本当に気の毒に思うんですけれど、これはいたしかたのないことで、それをより有意義な、無駄な時間にしないために、先生たちも努力をしています。
工夫し、検証して、はじめての経験をメリットに
自分の演奏している音を聴く
先生方に聞いてみると、実技を録音にとって、先生に送ってコメントを受けるとか、リアルタイムでやりとりしながら、色々な方法でやっていらっしゃる。それを一種類ではなく、二種類組み合わせる工夫も(先生たちが)なさっているみたいで。それぞれメリット、デメリットはあると思うんですけれど、自分がまず音をとって、それを先生に聴いてもらう。先生の方から感想なりそのコメントを受ける、という形が多いんではないかと思いますが、そうした時にまず自分の演奏している音を聴くという作業が入ります。大部分の学生にとって、それをコンスタントに行うということはかなり珍しいことなのではないかと思います。
メリットの作用を検証しながら
限られたコミュニケーションの中で重要ポイントを考える
試験の前や人前で弾く時には自分で音をとるなど、年に2、3回はするかもしれませんが、それを日常的にやるということはこういう時でないと、なかなかできないことです。この新しい経験を、自分の中でそのメリットがどういう風に作用されるのかを検証しながら(受講していただきたい)。限られたコミュニケーションの中で先生たちも学生たちに何をいうべきか、どういうところが重要ポイントなんだろうかと考えて、発信なさっていると思います。
新しい経験をプラスの学びにして
YouTubeを聴いてみたんです。歴史に残る名演奏家たちがいくらでも出てくるんですね。それを次々聴いていまして、これは音も悪くなく、何より演奏の良し悪し、本質が案外よくわかる。ちょっとびっくりしまして、長い時間けっこう聴いていました。演奏の何がすばらしいか、どういうところが歴史、時間の流れに耐えて、宝物のように残っているのかということがよくわかる、という気がしました。
優れた演奏には求心力、内面までも引き込む力
われわれが優れた演奏や音楽を聴いた時に、なんというんでしょうか、求心力があるということ。聴いている人の耳だけではなくその全体、内面までも演奏の中に引き込む力を持っているということ。本当にすばらしいというのは、良いとか悪いとか、どのくらい優れているとか、ここがちょっと物足りないのではなかろうか、いわゆる批評精神、批判する気持ちが完全に打ち消されます。その人の世界に引き込まれてしまう。音楽というのはこんなにも人の心を動かす、こんなにも自分の全身全霊を巻き込んでしまうんだと(実感します)。
演奏家の世界がどれだけ豊かであるか
すべてを覆い尽くすほどの深み、広さを内包したパワー
本当に優れているものはどんなツールを介しても人の心に到達する
その演奏家なりの世界というのがどれだけ豊か、引き込むだけの力を持っているか、もちろん個人の好みも大きく作用すると思いますが、作用する力が大きければ大きいほど、たくさんの人を巻き込むだけの力を持っている。それだけのパワーを持っているからには、その人の内面、音楽的な内面、すべてを覆い尽くすほどの深み、広さというものをなかに内包している。内包していないとそこまでの求心力を持って人を巻き込むというところまではやはりいかないではないかとYouTubeを聴きながら思いました。本当に優れているものはどんなツールを介しても、そこに突き抜けて人の心に到達するものを持っているんだと痛感しました。
音楽はあらゆるものを内包
自分の中に共感するものを探し続ける
音楽というのはあらゆるものを内包している、といつも皆さんに言っていますが、自分の身体を通して、自分の身体を響かせること。たとえば、YouTubeで演奏を聴いたり、本を読んでみたり、自分がちょっとでも興味があることをこういう時間に、なるべく触れてみる。自分の身体の中の何かに触れるもの、共感するものが自分の中にあるんだろうかと探していく、そういうことを積み重ねることによって自分のテンペラメントというんでしょうか、自分の個性、固有の自分の中に持っているもの、何を表わしたいか、どういうものに惹かれるか、段々とそれが形をなしてきます。これは卒業してもずっと続きます。
好奇心で常に探す
色んなものに目を向け、耳を傾け、心を開いて
常に探す、好奇心は一生続かなければいけないものですが、意識して、エネルギッシュに今色んなものに目を向けて、それをよく耳を傾けて、心を開いて、ということをしていただければ、非常に充実した時間を持てるのではないかと思います。
東京音楽大学学長 野島 稔
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