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新シリーズ【音楽学のススメ】~ 教員紹介編 ④藤田茂教授

さまざまな観点から音楽を考察する「音楽学」。新シリーズ「音楽学のススメ」では4名の専任教員に執筆を依頼しました。皆さんの音楽学習に役立つおもしろい「ネタ」を発信していただけることでしょう。
 
四人目は、藤田茂教授。フランス政府給費留学生としてパリ第4大学(現、ソルボンヌ大学)に学んだ後、東京藝術大学博士後期課程修了。過去にブリュッセル王立音楽院の短期招聘教授も務める。フランスの音楽文化を中心に研究しています。

 
― 音楽をはじめたきっかけを教えてください。

 

いわゆる音楽一家ではありませんでしたが、音楽にはずっと憧れていました。3歳からピアノを習いはじめるも一回止めて、中学校では陸上部に所属。中距離選手たらんとしたのですが、中距離のペースは速すぎても遅すぎてもダメ。種目としては一番疲れるんです。途中で嫌になったわけではないのですが、気づいたらまた走るよりはピアノを弾くようになっていました。
ドビュッシーが好きで、その音楽のなかにある、きらめきのようなものをずっと追いかけていました。高校時代から本格的に音楽に入れ込み、さて進路をと考えた時に、音楽学という学問があるのを知りました。地元の広島のソルフェージュの先生から、東京藝術大学の楽理科を教えていただいたのです。文章を書くことも好みにあっていましたから、これなら音楽と書くことを結びつけることができると思い、音楽学の道に進みました。
 

― 大学生活の様子を教えてください。

 

船山隆先生という現代音楽研究の大家の先生に師事していました。研究者でもあり作家でもあるような方で、先生の文章の輝くような美しさに衝撃をうけましたね。事実をただ並べたものでもなく、さりとて主観的な感想文のようなものでもなく、音楽がそのなかに鳴り響いているような文章なんです。私もそのようになりたいと強烈に思いました。
原点がドビュッシーですから、フランス文化への興味が強く、大学時代はフランス料理店でアルバイトもしていました。まかないがすばらしくおいしかったこともあり、時々、お店のピアノを演奏したりもして、3年くらい続けました。

 
― 大学を卒業してどのように研究の道へ進んだのでしょうか?

 

ドビュッシーをテーマにした卒業論文を仕上げ、そこで就職するという選択肢もあったのですが、やはり音楽学を続けたいという気持ちが強く、そのまま大学院に進学しました。その時から20世紀フランスの作曲家、特にオリヴィエ・メシアンの創作を研究テーマとするようになりました。
メシアンというと、当時はまだそんなのを研究してどうなるの?という雰囲気でした。修士論文でメシアンの『アッシジの聖フランチェスコ』というオペラをテーマにしたいと先生のところに相談に行ったら、開口一番に、「それ以外にはないの?」と言われてしまいました。持ち帰ってよく考えたのですが、やっぱりこれがいいということになって、もう一度先生のところに行きました。そしたら、「じゃ、そうしなさい」と認めてくださりました。論文を書き上げた時、先生は、「ダメだと言われても、それをやったのがよかった」と言ってくださりました。それが今の私の学生との向き合い方につながっています。

 

― 具体的に言いますと?

 
先生は豊かな教育経験をもっていらっしゃるので、このテーマではうまくいかない可能性があると判断されたのだと思います。それでも、若い世代にはご自分の基準では測りえない何かがあるという考えをおもちでした。そのような先生の大きさが、今、私が学生と向かう時の根本をつくっています。
話が戻りますが、大学院在学中にフランス政府からの奨学金を得て2年間パリに滞在しました。そこで画家・作家であるコニャック神父と出会い、意気投合しました。もうご高齢だったのですが、パリの友情に年の差は関係ありません。波長が合うかどうかが一番です。彼とは芸術とは何か、夢とは何かなど、いろいろな話をして時を過ごしました。2年間の滞在期間が終わり、後ろ髪を引かれながら日本に帰ってきたあと、どうにか博士論文を書き上げ、研究者としてのスタート地点に立つことができました。

 

― ドビュッシーからメシアンへ、先生にとって研究とはなんでしょうか?

 
研究するというのは、物知りになることではなく、世界を見る新しい見方を創造するものです。メシアンはそれを強烈に促してくれる作曲家です。日本人なのにどうしてメシアンを研究するの?とよく聞かれるのですが、私がメシアンを選んだのではなく、メシアンが私を選んだのだと答えることにしています(笑)。本当のところは、オリヴィエという名前の響きが好きだったからかもしれません。何ごとにおいても直感的な判断が大切だと常に思っています。

 

― 直感ですか。最後に学生にメッセージをお願いします。

 

学生さんと接するなかで、私がいつも驚かされるのは、彼らの底力です。舞台に立つという緊張に耐え、ひとつのステージを引き受けるという責任を果たす経験を積み重ねているかでしょうね。普通であれば間に合わないと思うようなことも間に合わせてきます。これには、いつも感心させられます。
今、社会はたいへんな速度で変化しています。私を含めた上の世代のやり方を、より若い人たちがそのまま続けているだけでは立ちゆかなくなるでしょう。先にも言いましたが、音楽学あるいは学問とは、世界の新しい見方を創造するためにあります。知識も大切ですが、学生の皆さんには、持ち前の底力と優れた直感力をフルに働かせて、自分自身の新しい世界の見方をつくってほしいと願っています。

 
【本学での主な担当講座】
学部では、「西洋音楽史概論」「管弦楽曲史」「音楽分析学」など。選抜者向けの音楽学課程で、「西洋音楽史演習」「音楽文献講読(仏)」を担当。大学院(修士課程・博士課程)では、論文指導や種々の専門的ゼミナールを担当。

 
(広報課)