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【新卒業生から新1年生へ ~熱いぜ、ザ・東京音大生~】第14回 正田彩音さん

正田彩音さん(ピアノ演奏家コース特別特待奨学生)

新卒業生から新1年生諸君へ

~熱いぜ、ザ・東京音大生~

 

音楽大学を卒業してピアニストに。今日ご紹介する正田彩音さんは、独自の道を歩みながら、殻を突き破りチャンスを掴んできました。今こそ、音楽に携わる日本の若者が皮を破っていかなければならない時に来ていると熱く語ります。全集中、炎の呼吸!

 

第14回 正田彩音さん(ピアノ演奏家コース特別特待奨学生)

【卒業後の進路】

森音楽事務所に所属

【出身高校】

学芸館高等学校卒業

 

― まず、今の仕事内容を教えてください。

 

音楽イベントに参加して、他楽器と共演する側ら、編曲やコンクールの伴奏、生徒の指導などをしています。

 

― ピアニストになる道を選んだのはどうしてですか?

 

「クラシック音楽」を研究する意味は、作曲家の意図することを正しく受け継ぎ、その伝統を網羅して後世に伝えていくことだと考えています。留学か、大学院への進学かを考えた時、自身としてはトラディッショナルな音楽のなかに自分の感性や考えを取り込んだ演奏がしたいという強い想いに至りました。そして純粋なクラシック音楽へのアプローチとは微妙に角度が違うのではないか、作曲者の意を捻じ曲げたり誇張したりすることにならないかと随分悩みました。しかし、悩んだ結果、ピアノを弾くこと以外はなにもできず、社会を知らなすぎる自分へ、自立するという意味も込めて、その第一歩を踏み出す機会と考えて、社会に出ようと決心しました。

 

▲ 杉並区企画 助成事業コンサート(葉月ホール)、バスバリトン歌手大澤健氏と共に

 

― 大きな一歩を踏み出しましたね。送り出してくれた先生に何か言われましたか?

 

大学最後の年に、吉田友昭先生に「お前の演奏は嫌う人もいるけど、熱狂的に支持する人もいる!」と言われました。この評価はまさに自分の意とするところであり、また社会に出ていこうというタイミングで言われたことで、自分の支持者がいるんだという圧倒的活力となりました。演奏に関して今までいただいたなかで一番心にささりました。吉田先生、ありがとうございました。

 

― 熱い!力強く背中を押してくれた先生に感謝ですね。正田さんは音楽事務所に所属ピアニストとして活動を開始しましたが、それを実現できた決め手はなんだと思いますか?

 

在学中に真剣に音楽と向き合っていたおかげで、自分の得意分野、好み、方向性が確信できたことが大きいと思います。また自分をアピールする材料として、プロフィール原稿や複数の曲をデモテープとして用意していたことも、緊急のオーディションなどの際スムーズに行えた要因ではないかと思います。とにかく持ち曲をたくさん蓄えていたことがよかったと思います。イベントなどは急に入るものもあって、演奏できる時間配分が決まっている上、主催者側からのリクエスト曲などもあったりします。短いものからある程度大きな曲、落ちついたやさしい雰囲気の曲から元気のいい曲、大学4年間をとおしてなるべく多くの曲に触れて、レパートリーとして蓄えておくことが必要だと感じています。

 


▲ 事務所の先輩ヴァイオリニスト、桜井大士氏との共演
 

― なるほど。経験者は語るですね。今度は正田さんの大学時代のことを聞きたいです。東京音大に進学した理由は?

 

私の選んだ高校は通信制で、入学前は学校という枠や組織に少々苦手意識をもっており、大学進学自体も止めようかと考えた時期もあったほどでした。奏法について模索しながら海外のマスタークラスや講習会、コンクールを受けつつ、独自に道を歩んでいたという感じです。今思えばひとり殻に閉じこもっている時期に、運よく東京音大から特別特待奨学生として迎えていただくお話を頂戴しました。自分を客観視できるチャンスととらえ、毎年コンクールを受けるのと同じ気持ちでチャレンジ精神を持続できる環境だと判断し、東京音大への入学を決めました。

 

― 殻を突き破る大きな決断をして、実際入学してみてどうでしたか?

 

通信制だった高校時代は、校内で授業を受けるということがなかったので、大学で興味ある分野の講義を聴講できるということは私にとって新鮮でした。多くのことを吸収したいという気持ちとワクワク感の方が勝って、演奏や勉学に関して苦労と思ったことはありませんでした。
大変だったことと言えば、もち歩く楽譜が重すぎて、キャリーケースでゴロゴロと練習室確保のため練り歩いて移動していたことくらいでしょうか。ゴロゴロと音がすると、「正田が来た!」とよく言われていました(笑)

 

― 重いキャリーケースにたくさんの楽譜を詰め込んで…たくさんの楽曲を練習したんでしょう?

 

はい、高校時代まではバロック時代から近現代まで、より多くの楽曲に接して、それらに苦手意識をもたないよう、各作曲家の基本的作品を勉強することに力を入れてきました。そして大学入学後は、自分の好み、性質、得意分野を模索しながら、純粋に惹かれる作曲家、作品と対峙し、より深く特定の分野を追求するように専念しました。

 

― 学生時代に繰り返したたくさんの練習が、今の正田さんの演奏活動に生かされているのではないでしょうか。受講してよかった授業は?

 

ロシア語、憲法、倫理学、指揮法です。ロシアの文学や芸術ばかりでなく、奏法もロシアに傾倒していたので、ロシア語の開講を知った時は飛びつきました。毎回宿題が出され、講義中もひとりずつ発音するので緊張感のあるものでしたが、独学の苦労を思えばとてもありがたかったです。毎回少しずつ読み書きができるようになるのが実感できて、とてもうれしくて、充実した時間でした。
憲法と倫理学は音楽とは直接関係ないものですが、自分の知らなかった知識が得られ、その多くが日常に直結するもので、非常に興味深かったです。

 

― 東京音大は語学の教育にも力を入れています。ロシア語を学んで何か役に立ちましたか?

 

マスタークラスで招聘したロシアのトロップ教授ご夫妻が来日した時、ロシア語のできる学生ということで、空港から大学まで案内する大役を仰せつかりました。ウエルカムボードを作りひとり緊張のなか、成田空港ロビーで飛行機の到着を待っていたのを今もよく覚えています。

 

― すごい大役を!貴重な経験をしましたね。語学は知識としてだけでなく、コミュニケーションをとる大切な手段ですね。授業や練習以外にも在学中にチャレンジしたことは?

 

私は中学生の頃から海外のコンクールをたくさん受けてきました。ホームページを読んでエントリーし、原語でプロフィールを書き、課題曲を把握して予備予選の録音をとり、予選から本選までの選曲をするなど、そのすべてを自分でこなすのにいつも困難が伴っていました。
しかし、大学在学中にした数回の応募をとおしてそれまでの苦難を克服したばかりでなく、現地でのコンペティター同士の練習室の貸し借りや、トラブルに対処するやり方まで、多くのことをマスターできたように思います。

 

― いろんなことに挑戦した正田さん、ところで東京音大の魅力はどこにあると思いますか?

 

新しく近代的な設備の整った校舎で学べること。海外教授のマスタークラスが充実していること。仲間同士が切磋琢磨してがんばっていること。
また主観的な意見となりますが、ほかの音大と比べて個性的な方が多く、卒業後も多方面で活躍されている方を多く見かけます。いわゆる「個人力の強さ」を感じますね。

 

― 一人ひとりの個を認めて伸ばしてもらえる大学ということですね。これを読んでくれている若い音楽家の人たちにアドヴァイスをいただけますか?

 

「音楽」という大きな枠内を細分化して、自分の唯一無二の音楽を見つけてほしいと思います。専門分野を極めるのはもちろん、専攻楽器以外の勉強もしかり。クラシック以外のものをのぞくのもヒントにつながるかもしれません。機械的、数学的、土着的、舞踏的、色彩的要素など、どこか音楽とのなかに自分の偏っている接点を知ることで、新しい面が開けてくる可能性があると思います。
また、高い演奏技術は、思い描いた音楽を表現でき、伝えたい気持ちをより明確に表わせる最高の手段だと考えています。私もいつもこのことを自分に言い聞かせて日々精進しています。
 

― いついかなる時も探求心をもち続けることが大切なんですね。最後に、演奏活動をとおして今の正田さんの音楽に対する思いを語ってください。

 

2020年コロナウイルスの世界的蔓延により、ヨーロッパやアメリカの人々との根本的な考え方や習慣の違いがあらわになりました。それぞれの国や地域によってアプローチの仕方や感情表現の出し方は大きく異なるということも改めて感じました。
日本はクラシック音楽発祥の地ではありませんが、正しく継承すると共にこの国の人にしか気づかない細やかさや空気感、表現によって、音楽に携わる若者が皮を破っていかなければならない時に来ているような気がします。機会があれば若い皆さんと音楽談議をしたいと思います(笑)

 

▲ 事務所企画による、赤坂インターシティAIRでのストリートピアノ演奏後
 
― 正田先輩と音楽談義、熱くなりそうですね。今日は貴重なお話をありがとうございました。

 
(広報課)