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【新卒業生から新1年生へ ~熱いぜ、ザ・東京音大生~】第17回 麻生海督さん

麻生海督さん(作曲「芸術音楽コース」)

新卒業生から新1年生諸君へ

~熱いぜ、ザ・東京音大生~

 

作曲「芸術音楽コース」で学んだ麻生海督さんは、音楽を音楽だけで語ったり見たりすることは無謀だと話す。ポップスやロックから、絵画、文学や建築まで専門分野以外のことをしっかりと見ていくことを大学4年間だいぶ“執着”してやるようにしたと言う。いろいろなつながりが麻生さんの創作活動のヒントに。大学院に進んで商業音楽を学び、今年5月、ベルリンでの自作品の再演も決まりました。

 

第17回 麻生海督さん(作曲「芸術音楽コース」)

【卒業後の進路】

東京音楽大学大学院に進学

【出身高校】

成田高等学校卒業

 

― なぜ東京音大への進学を決めたんでしょうか?

 

自由に活動できるところに惹かれました。作曲は特に自由だと感じました。いろんな音楽を書きたいと思っていたので、芸術音楽だけでなく映画・放送音楽コースも設置されていて、商業音楽にも強い東京音楽大学は僕にピッタリだと思いました。学生主体で自由に演奏会を開けるところもいいなと思った点でした。

 

― 入学してみて、当初の思いは叶いましたか?

 

はい。4年間をとおして、自分の専門分野に限らず、ほかの分野のことにもしっかりと目を向けるようにしました。音楽を音楽だけで語ったり見たりすることは無謀だと考えています。芸術分野のなかでも、絵画や文学や建築、音楽ではクラシックだけでなく、ポップスやロック、ジャズなど、別の系譜をしっかりと見ていくことをだいぶ“執着”してやるようにしました。
知らないアーティストの楽曲を聴いたり、小説を読んだり、時間がある度に美術館へ行ったり、現代舞踊の公演を見るために富山まで行ったりもしました。今はなかなか外に出ることがむずかしいので、家で映画を観たり、オンラインでMoMAが監修する講義を受講するようにしています。さまざまなものを見ていると、いろいろなところでみんなつながっているんだということがわかってきます。これは芸術分野に限った話ではなく、社会的なことやいわゆるサブカルチャーといった流域にも及んでいて、僕の創作活動において大きなヒントになっています。

 

― 大学の授業では特に印象に残っているのは?

 

作曲科の必修授業で「作曲理論」という授業があります。毎年内容も先生も変わって作曲の基礎を叩き込まれるのですが、4年生になって最後に学んだ原田敬子先生の「作曲理論4」は大変勉強になりました。基本的に20世紀以降の作曲様式を学ぶ授業なのですが、ディスカッションをとおして作曲技法・様式にとどまらず、思想や言語感覚、論理といったことまで徹底的に鍛えられました。なんとなく理解したつもりになっていた同期たちの思考回路をきちんと議論をとおしてのぞけたのは大変有意義なことでした。最終仕上げとして自作のプレゼンテーションも行ったのですが、自分の感情や感覚を言語化することを学んだことで、創作活動にとどまらず、それ以外にも大きな影響を及ぼしています。

 

― 4年間の一番の思い出を教えてください。

 

一番大きな思い出は、短期留学に行ったことです。奨学生として中国とドイツへ行きました。北京中央音楽院で同世代の作曲科の学生たちと交流して、作品創作の違いは文化の違いまでをも包括していることを感じて、強い刺激を受けました。
ドイツではベルリンを拠点として活動しているAsian Art Ensembleに拙作を初演していただきました。東アジアの伝統楽器と西洋の弦楽器という異色のアンサンブルの作品でしたが、地域差をもっているものを西洋でどのように表出していくのか、もしくはどのように共存していくべきなのか、ナショナリズムとアイデンティティの立ち位置を強く学びました。評価をいただけて、今年2021年5月に再演が決まり、本当にうれしく思います。
作品をベルリンの聴衆に聴いていただいた以上に、日本人として西洋音楽をやっていく上での僕の今後の指針になったように感じます。

 


▲ AAEのアーティスティックディレクターである指揮者・作曲家のIl-Ryun Chung さんと

 
― ドイツでの演奏会は大成功だったと聞いています。大変興味深い話ですので、最後にもう少し詳しく聞きたいと思います。ところで麻生さんのパワフルな活動の支えとなっていることはありますか?
 

僕は4年間糀場富美子先生についていましたが、レッスンでは曲をどういう風に展開していくか、楽器をどうやって使うのか、或いはどう考えるのか、そうした具体的なアドヴァイスは大きな糧になっています。
僕自身、「好きなことを書けばいいじゃない」ということをこれまでに何度も言われてきました。これは案外バカにできなくて、書いているうちに段々と計画からズレていってしまうんです。その時に、この言葉が自分をもう一度あるべきところに引き戻してくれているように感じます。
あと、作曲とはあまり関係ないのですが、「一度きりの人生なんだから、あなたの好きなように生きなさいよ」ということもことあるごとに糀場先生に言われます。糀場先生は僕にとって、もはや第二の母です(笑)。僕よりもずっとパワフルなのでいつも元気をいただいています!

 

― 「母は偉大」ですね!東京音大の魅力はなんだと思いますか?

 

なにより先生方の豪華さだと思います。実践が大きく物を言う分野なので、多くの経験がある先生方に直接指導いただけるのは大きな魅力です。ひとつのことに集中すると視野が狭まってしまいがちですが、いろんな分野の先生から予想もしない角度からアドヴァイスをいただけるので、とても勉強になります。
 

― 卒業後の進路は?

 

東京音楽大学大学院で作曲を勉強しています。今は、作曲指揮専攻作曲研究領域応用音楽コースに所属して、映画音楽をはじめ商業音楽も学んでいます。クリシカルな作品だけでなく、映画やテレビといった商業音楽やポップスといった音楽も書いていきたいと思っています。これからの時代、作曲家自身が創る音楽の線引きをするのはちょっと違うかなという気がしています。商業音楽をしっかり学べばそのスキルは現代音楽を書く時にも応用できると考えました。

 

― 後輩たちにメッセージをお願いします。

 

まず自分の「好き」を見つけて徹底的に好きになってみてください。音楽、ファッション、スポーツ、旅。なんでもいいです。それから、それを少し分析してみる。音楽なら、どうしてその作曲家が好きなんだろうとか、どうしてその曲が好きなんだろうとか。考えてみることでなにかが見えてきます。おそらくそれが自分の本質なのではないかと思います。SNSが普及しているこの時代で大切なことは、常に物事の本質を見失わないことだと思います。特に芸術分野では忘れてはならないことだと思います。
新しいことにも臆病にならないでほしいと思います。これからの時代を作るのは僕らやみなさんの世代です。正体不明のものに触れるのは勇気が要ることですが、そこを開くのも、もちろん作るのも、我われしかいません。その姿勢はきっと新しい「好き」を見つけることにつながると思います。新しいことがすべてでは決してないのですが、新しいことを無視することもまた違うと思います。
世界はものすごいスピードで変わっていますが、音楽のあり方は変わらないと思います。これからさらに身近な存在になるのではないでしょうか。音楽自体もそうですが、アーティスト自身がより身近な存在になっていくと思うのです。そうした社会のなかで生きていく上で、我われは音楽家、アーティストとしてなにをしなければならないのか、またなにができるのか。多様性を大前提に想像力を働かせて、自分をしっかりと確立させた上で、多くのことに触れて吸収していってください。それは音楽以外の道でもきっと役立つことだと思います。皆で一緒に勉強していきましょう。

 

― 最後に、短期留学した時のことについてもう少し詳しく教えていただけますか?

 

Asian Art Ensemble (以下AAE*)のメンバーとは北京ではじめて会いました。みなさん本当にフレンドリーな方々ばかり。たった数日でしたが、いろいろな話をして大いに盛り上がりました。現地では原田先生も同行されていて、アンサンブルとのやり取りなどを生で拝見できたのは本当に勉強になりました。そこで交流した北京中央音楽院の学生のひとりが、のちに「東アジア文化都市2019豊島」の一環として東京音楽大学で開催されたコンサートに招聘作曲家として来日して再会するなど、今でも交流があります。
北京では、AAEメンバーによる講義を受けるのが目的でした。(中国人向けの講義だったので、さらに僕は恥ずかしながらドイツ語が話せないので、ドイツ語から中国語への通訳は地獄でしたが。その後英語で個人的に説明を受けたりしました……)
それを基に作品を書き、ベルリンで初演という形です。
僕は箏とヴァイオリン・ヴィオラ・チェロというカルテットを書きました。
現地の聴衆からの評判も、さらにアンサンブルからの評判も案外よく、今年5月にワイマール現代音楽祭でのAAEの公演にプログラムされています。
ベルリンでメンバーに再会した時は、さらに交流を深めることができました。メンバーだけでなく、同じコンサートで作品を発表した同世代の作曲家たちも含めてです。リハーサルでの作品のやり取りだけでなく、一緒にランチをとったりカフェでコーヒーを飲んだりしながら他愛もない会話をしたり。でもそうしたやり取りのおかげで円満な関係を作ることができ、その後につなげられているのは大きな収穫でした。メンバーのうちの2人が演奏で来日した際に再会して一緒に夜遅くまで話をしたことなど、いい思い出です。

 

▲ 本番での一コマ。一番手前は箏の菊地奈緒子さん
 
*AAEは、2007年にベルリンで設立された団体で、アジアの伝統楽器とヨーロッパの弦楽器をつかったアンサンブル演奏会やワークショップを主催しています。今年5月、日本人の作曲家を取り上げるコンサートで、麻生さんとともに、藤倉大さんや桑原ゆうさんら欧州でもご活躍の作曲家たちの作品も上演される予定です

 

― こうやっていろいろなところでつながっていくんですね。興味深い話をありがとうございました。今後のご活躍を楽しみにしています!

 

(広報課)