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【卒業生インタビューシリーズ~TCMの先輩たちの今】第9回 浅野千尋さん

浅野 千尋さん

歌手、ボイストレーナー、音声教育学者

声楽演奏家コース2019年卒業 東京音楽大学付属高等学校卒業

  


現在アメリカ・ボストンを拠点に活動している浅野千尋さんは、声楽演奏家コースを2019年に卒業し渡米。オペラの舞台に出演する側ら、音声教育学にも力を入れ、今年5月にニューイングランド音楽院の音声教育学科(Vocal Pedagogy)修士課程を修了し活躍の場を広げている。

 
 
― まず、浅野さんの今の主な活動内容を教えてください。
 

現在はニューイングランド音楽院のGraduated Diplomaに所属しながら学内の副科声楽の生徒のレッスンをしたり、学外でオペラに参加したり、教会で演奏する側ら音声教育学に携わる個人研究を学校のラボで継続しています。

 

― 多肢に渡るご活躍ですね!どうして音声教育学に興味をもたれたのですか?
 

声楽をはじめる前、12歳ごろから声帯結節を作ってしまうなど、声のトラブルに見舞われる機会が多く「なんでこんなことが起こってしまうんだろう、どうしたらもっと健康的に歌えるんだろう?」と疑問をもったのがきっかけです。はじめは音声障害に関する勉強をしていましたが、探求するにつれて解剖学、音響学が本当におもしろいなと思うようになって……。文献が英語のものが多く読み進めているうちにアメリカで「Vocal Pedagogy」という学問が盛んだということを知りました。

 

- では、音声教育学についてもっと詳しく教えてください。
 

声楽教育学とは、声楽指導の芸術と科学に関する学問です。歌うこととはなにか、歌うことはどのように機能するのか、正しい歌唱法はどのように達成されるのかを探求します。優れた教育は、「Knowing (知ること)」と「Doing(行うこと)」の両方から生まれるという考えに基づき、2年間にわたり、主に以下のようなことを学びます。

 

  • 音声教育の歴史と哲学
  • 解剖学、生理学、音声音響学、音響心理学の知識
  • 声の聴き方と機能的なトレーニング方法
  • 生徒の上達を最大化するための運動学習理論の活用方法
  • アカデミックな議題に対して仲間とディスカッションできるスキル
  • 独自の研究をラボで行い、それを専門家と共有する
  • 対面レッスンとオンラインレッスン双方で教えるスキル(音声教育学の生徒はアルバイトとして副科声楽の声楽レッスンを行うことが必須)
  • 2年間で約30個のクラスを、月曜日から金曜日まで休みなく朝9時から夜10時まで受講するという驚きのスケジュールでしたが、非常に充実した2年間でした。

     

     

    ― 課題がたくさんあるのですね!

     

    はい。毎週100ページほどの音声学に関わるテーマ別の書物が課題として渡され、その内容についてクラスメイトや先生とディスカッションします。哲学書から解剖学まで幅広く読まされますが、カウンターテナーの歴史の文献や音響学に関する書物が中でも印象的でした。
    個人研究は4セメスター、自分のテーマを決めて取り組みます。私は『日本人女性の声と社会的影響』『日本人女性の声とアニメ』『ノイズ声の知覚研究1.2』を行いました。学校には研究室がありさまざまな音に関する研究ができる環境が整っています。私は2年間で論文を4つ書きましたが、中でもPAVAという音声学会で研究発表をやらせていただいたのは本当にすばらしい経験でした。

     


    ▲『日本人女性の声とアニメ』研究発表

     

    ほかにも、統計学やオペラ、声楽科、伴奏科で必修のフランス語、ドイツ語、イタリア語、英語のディクションの授業、さらに、言語、歌詞の表現や歴史をはじめ、コンサートプログラム構築やマーケティングまでソングパフォーマーに必要なさまざまな知識を学ぶソングラボの授業。毎日、課題と練習でやることが目白押しでした。

     

    ▲オペラの授業として、2年間で「カルメル派修道女の対話」「SVADVA」「ダイドーとエネアス」「An American Dream」4本のフルオペラに

     

    ― そのどれもが今の浅野さんの活躍の土台をつくっていると思います。
    東京音大での学校生活もお聞きしたいと思います。本学への進学を決めたきっかけは?

     

    付属高校の文化祭に行った時に、学校の自由な校風と、先輩方の楽しそうに音楽を奏でている様子に惹かれました。当時から師事していた秋山先生の勧めもあって進学を決めました。

     

    ― 学校生活はどんな感じでしたか?

     

    たくさんのクラスメイト、同級生たちと音楽を創ること、楽しむことに勤しみました。クラシック音楽に拘らずに、JAZZコンボ、セッションなども。授業では、毎週行われていた「舞台基礎演技法」で間違いなく音楽面、歌唱面、精神面共々鍛えられたと思います。
    また、アメリカでは現代音楽、初演オペラに携わる機会が多くなったのですが、東京音大で培ったソルフェージュ能力、アンサンブル能力が非常に役に立っていると感じます。

     

    ▲舞台基礎演技法のクラス
     
    ― 振りかえって、東京音大の魅力はなんでしょうか?

     

    すばらしい先生方と質の高い音楽を勉強できること。クラシックを専攻していても、他の専攻(作曲やリベラルアーツ)の学生と知り合うことができるので、新しい音楽の形を学べること。学生と先生の関係性が親密で、遠慮せずにいろいろなこと相談できること。加えて、海外の音楽大学の交換留学生とも触れ合う機会が多いことです。

     


    ▲恩師の加納里美先生、秋山隆典先生と

     

    ― 先生からも他専攻の学生からもたくさんの刺激をもらえたのですね!後輩たちにどんなアドヴァイスを送りたいですか?

     

    学内外を問わずたくさんの音楽仲間を作るべし!これは一生モノです。それから、学べるものはすべて吸収すること。外のコミュニティーに出ることを恐れないこと。あと、交換留学のオーディションがあれば必ず受けてみること。人生が変わります(笑)

     

    ― 興味深いお話をありがとうございました。これからもご活躍を楽しみにしています!

     
     

    【浅野千尋さんプロフィール】
    東京音楽大学声楽付属高校、東京音楽大学声楽演奏家コース共に首席卒業後、米二ューイングランド音楽院に給費奨学生として合格し、音声教育学/音楽教育学の修士課程を修了。米国ではオペラ「スヴァドゥヴァ」ルビカ役、「アン アメリカン ドリーム」ヒロコ役、など様々な舞台に出演。現代音楽の初演等も数多く行う。また音声教育学にも力を入れており2020年にはパンアメリカ、ボーカルアソシエーションにて研究発表を行う。声楽をマリアンマルコミック、イアンハウエル、マークリー、秋山隆典、加納里美の各氏に師事。現在アメリカボストンを拠点に活動している。
    米二ューイングランド音楽院の音声教育学のHPはこちら≫https://necmusic.edu/vocal-pedagogy

     
     

    (広報課)