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【在学生インタビューシリーズ】第25回 塩﨑基央さん(ピアノ演奏家コース 特別特待奨学生 4年)

塩﨑 基央さん
 

ピアノ演奏家コース 特別特待奨学生 4年

「ピティナ・ピアノコンペティション2024 特級」にてファイナルまで進出し、銅賞ならびにオンライン聴衆賞第1位を受賞した塩﨑さん。一方で、高校時代からクラシック音楽の魅力をSNSで発信しており、人気インフルエンサー「なで肩のモD」としても知られています。東京音楽大学入学後は『世代をつなぐ架け橋』として活動するZ新世代 学生オーケストラ「ネコフィル -Next CosMo Philharmonic-」を立ち上げ、活動の幅をさらに広げてきました。大学生活を通じて学んだこと、精力的な活動の原点、これからの活動や抱いている夢まで。塩﨑さんがいま感じていることを、等身大の言葉で語っていただきました。

 

 

― まずは、数ある音楽大学の中から東京音大を選ばれた理由を教えていただけますか。

 

私は公立中等教育学校に通っておりましたため、周りに音楽家を目指す友人はごく数人しかいませんでした。そのため、どの音大が自分に合っているのかという情報を得るのが難しい状況でした。さらに受験した当時の2020年は、世界的にコロナショックが訪れたタイミングでした。オープンキャンパスに参加することさえも難しい背景があり、様々な音楽大学のホームページで情報を収集していたところ、東京音大が目に留まりました。アップされている紹介動画や校内の様子などを拝見し、さらに掲げる大学ビジョンに記載された本学の方針に感銘を受けまして、自分自身の音楽活動における信念に合う環境だと感じました。
 

 

― 具体的にはどの部分に惹かれたのでしょうか?

 

第2項目中の「急速な技術革新やグローバル化等により絶えず変化する社会にあって、音楽大学には、演奏や音楽活動を通して人びとに感動を与え、その精神を崇高にし、多様な価値観を受け止められる感性を有する人材の育成が求められます。」という一文。そしてそれに続く「音楽とITを融合する最先端の分野等についても多角的な視点をもった人材を育成し、社会のニーズに応えます。」という文章に特に心を掴まれたんです。
というのも、ちょうど自身がYouTubeの活動をはじめたタイミングと重なっており、この表現には非常に刺激を受けました。当時は、コロナ禍でリアルな場での演奏会が激減するとともに、動画配信コンテンツが爆発的に増える中、僕もIT技術を使って自分なりの芸術表現、またクラシック音楽の魅力を発信できるんじゃないかと思い、活動をはじめたころでした。そこに、『音楽とITを融合する』という東京音大のビジョンに書かれた言葉を見て、『ここなら自分のやりたいことが学べる』と確信しました。

 

― 実際に入学してからの生活や学びはどのように感じていますか?

 

数え切れないぐらい得られるものが多い毎日です。中でも専攻実技における『楽器を弾きこなす』という感覚について、言葉では表現し得ない奥深さがあることを再認識しました。
楽器を演奏すること自体は、練習することで誰でもできるようになります。その一方で、『弾きこなす』というのはまったく別の事象です。その感覚はすごく難しく、かつ、実際にそれを弾きこなしている方にしかわからないものとも言えるんです。ただ音を出すだけではなく、その背後にある感情や物語をどれだけ伝えられるかが問われます。
東京音大の先生方は一流の演奏家であり、まさに『弾きこなす』ことを体現している方ばかりです。私は武田真理先生、川上昌裕先生、佐藤彦大先生の3名に師事しておりますが、先生方からの指導を受けることで「ああ、弾きこなすってこういう感覚なんだな」と思える瞬間が増えています。そして、この“感覚を受け継ぐ”ということがクラシック音楽の伝統なんだなという、自分なりの学びに行き着きました。

 

― 先生方のご指導を吸収することで、音楽家としての視野や世界が広がったのですね。

 

はい、そうなんです。ほかにも自分の専攻以外の楽器の世界に触れられる、音大ならではの学びがたくさんあります。
たとえば「ピアノ実践伴奏」という授業を受けているのですが、伴奏者として他専攻の方のレッスンに触れることができます。「こういう音楽の表現もあるんだ」とか、「この方々と一緒に演奏する場合、こういう新しい視点からのコンセプトもありだな」といった気づきが本当に多いんです。
また、東京音大は学生でありながら学外での演奏活動も行うなど、活躍されている方がたくさんいらっしゃると感じます。そういった同年代の音楽家たち、音楽を志す同志たちと常に触れ合う環境にいるからこそ、「クラシックってこういうものなんだろうな」と思い浮かべる世界観の、一歩先の次元から深いクラシックの表現に取り組むことができる環境だと感じます。今の自分の活動にものすごく繋がっているという要素がありますね。

 

 

― 学業に勤しむかたわら精力的に活動されている「ネコフィル」やSNSでの発信活動にも繋がっているのですね!活動内容について、改めて教えてください。

 
クラシック音楽の魅力を全世代の人にお伝えするべく、高校3年生の時から「なで肩のモD」としてSNSにおいての活動を開始し、現在では総フォロワー数15万人超えに。主にクラシック音楽の分かりやすい楽しみ方を発信し、総再生回数は1億2000万回を超えました。そして東京音大に入学後、東京音大の学生で構成されるZ新世代オーケストラ「ネコフィル -Next CosMo Philharmonic-」を立ち上げ、代表を務めています。
 

― 「ネコフィル」を立ち上げた経緯を教えていただけますか?

 

私がYouTubeの活動を始めた経緯でも少し触れましたが、高校3年生から大学1年生にかけてのコロナ禍の真っ只中、生まれてはじめてリアルでのコンサートが一気になくなるという経験をしたんですね。クラシック音楽は生で聞くということがすごく価値が高いとされているジャンルじゃないですか。その大事な要素が束の間であろうとも消えたというショックと同時に、学生は自宅待機という状況が続いて、授業や活動など様々な場面でオンラインへと移行せざるを得ない状況が展開されました。
クラシックの演奏会などにおける来場者のうち、”X世代”といわれる40代後半~60代前後の年齢層が最も多い割合であるというデータがあります。一方で、現在は、10~20代である“Z世代”の来場者割合が合計で10%にも満たないクラシック公演が多数あるほど、クラシック音楽を現地で聴く世代間の分離が各データから見てとれます。私たちクラシック音楽家を志す世代が大人になった時に、クラシック音楽が今ほど活性化されているという未来が見えない。そんな、絶望的な状況に感じられたんです。
『今こそ若い世代にクラシック音楽の魅力を伝えないと、この伝統が途絶えてしまう。今までにない新しい行動を起こさないと状況は変わらない』と確信しました。クラシック音楽の新たな楽しみ方とトレンドを発信し、『世代をつなぐ架け橋』として新しい層のクラシックファンを開拓する。これが「ネコフィル」立ち上げの原点の想いです。
 

― そこからどのように行動に移されたのでしょうか?

 

「ネコフィル」を結成したのは2022年5月、当時私は大学2年生でした。その前年はまだコロナの時代であり、授業形態もレッスンのみ対面、授業はオンラインという1年で。
普通は大学入学直後の1年生で友だちを作ったり、交流したりする時期ですよね。ピアノの皆さんとは知り合うことができたんですが、ほかの専攻の方々とは2年生ぐらいまで知り合う機会が全く無く…。ただ、唯一の希望がありました。
大学初日の入学式で、入学生代表として宣誓・答辞の文を一緒に読んだ、ヴァイオリンの前田妃奈さん。その際に連絡先を交換していたので、「ネコフィル」結成への強い思いを伝えたところ、ものすごく共感してくださって。やっぱりオーケストラやるしかないよね、と。前田さんは付属高校出身で人脈もあり、多大なる協力をしてくださったんです。「ネコフィル」が立ち上げられたのは、前田さんのご尽力のおかげです。

 

― SNSを活用した発信や、柔軟な企画と世代を超えたクラシック音楽の魅力を伝える姿勢が多くの共感を呼び、「ネコフィル」は注目を集めていますね!

 

「ネコフィル」は公演ごとに、毎回異なるコンセプトを設けています。
たとえば直近の主要公演である『ネコフィル音楽祭』という、大規模な公演を2日間連続で行った時のこと。この音楽祭では1日目を『Fly the hat!』と題し、これはアメリカの大学で卒業式の際に行うハットトスのようなイメージがもとになっています。2日目は『童話アートな音楽空間』として、プロジェクションマッピング×クラシック名曲×200年の歴史をもつグリム童話「ブレーメンの音楽隊」の融合作品を創作し実演しました。
「ネコフィル」として公演に参加してほしいメンバーへ、私自身が1人1人ご連絡を差し上げ、作成したネコフィルの企画書と資料、そして資料動画を携えてプレゼンし、その思いに共感してくださった方や、その方のご紹介者に参加していただきました。ネコフィルは学生オーケストラという特性上、大学の演奏会との日程かぶりやそれぞれのメンバーの活動がありますので、メンバー変動も大きいです。ですがそのことにより、それぞれの回の公演テーマに特に共感していただける方と一緒に行わせていただけるのではないか、と思っています。
 

 
― 前田妃奈さんをはじめ、ハイレベルなメンバーが集まっているのも「ネコフィル」の素晴らしさだと思いますが、入団オーディションなどがあるのでしょうか?
 
今や世界的なヴァイオリニストとして活躍をされている前田妃奈さんに第1回公演でコンサートマスターをしていただいたこともあり、その後も才能あふれる方々にご参加いただいています。前述の『ネコフィル音楽祭』ではヴァイオリン特別特待奨学生の保科結太さんにコンサートマスターを務めていただき、サクソフォンで同じく特別特待奨学生の藤田智也さんにも参加していただいたり。
実力と熱意を兼ね備えた方にお集まりいただいてるという、大変ありがたい状況なんですが、特にオーディションなどはありません。既存メンバーのご紹介によってお集まりいただくこともありますし、「ネコフィル」は″生のコンサート会場だけでは届かない方にもオンラインを通じて音楽の魅力を届ける“というコンセプトを掲げているので、そういったコンセプトや企画を喜んでくれそうな方々に直接お声がけをさせていただくこともあります。
もしネコフィルにご興味がある方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡をお待ちしております!笑
 

― 新メンバーを受け入れきれない時もありそうですね?

 
はい、実際に2人しか枠がないオーボエパートに5人くらいご希望をいただいた公演がありました。これでは、全員が演奏する機会をもつことが難しい。そこで「通常は1人のオーボエソリストが担当するオーボエ協奏曲を、複数のソリストが交代しながら順番に演奏するリレー形式で演奏してはどうか?」という「ソリストバトンリレー」というアイデアが浮かんだんです。この形式なら、一人ひとりが協奏曲のソリストとして立てるので、メンバー自身の演奏経験が広がると考えました。
この企画には、私の経験も影響しています。私もピティナ・ピアノコンペティション特級やドバイの国際コンクールでオーケストラと共演する機会を得て、協奏曲の経験がいかに重要かを感じました。オーケストラと共演すると、ソロ演奏とは違う、アンサンブル力や表現力が求められてくるんです。その経験が演奏に深みを与え、演奏者としての成長に大きく寄与してくれる。だからこそ「ソリストバトンリレー」を通して、仲間たちにもこの貴重な体験をしてもらいたいという思いがありました。

 
― お話を聞けば聞くほど、情熱をもって精力的に活動されていることが伝わります。その活動の源には、どのような想いがあるのでしょうか?
 
私を突き動かす原動力として、実は『和声で日本をしあわせ~に!(笑)』という大きな目標に対する強い信念があるんです。
高校2年生の時に、自分の将来について考え小論文を書くという授業があったのですが、その時にこの目標を掲げました。この際にデータを調べて知ったのが、日本ではクラシック音楽とポップス音楽では約11倍の市場規模の差があるという驚愕の事実、大変ショックでした。大好きなクラシックが衰退していくことを目の当たりにしたと同時に、クラシック音楽の道を歩んでいきたいという自身の未来に対しても押し寄せる危機感。と同時に浮かんだ仮説が、「もし和声の”感覚”が全ての日本人の無意識下に身に付けば、この現状を脱却できるのではないか」ということです。
 
私は中学1年生から作曲を学んでいて、そのときに「クラシックの音楽理論である和声は、単なる理論ではなく実は音楽を感覚的に楽しむことができるための要素」であることを知り、ここに大きな可能性を抱いてきました。この“和声の感覚”がもっともっと広がれば、クラシック音楽を楽しく感じられる人が増えるのではないかと思い至ったのです。
YouTubeの活動も、クラシックのおもしろさを“和声の感覚”という新しい観点からお届けしたいという思いからはじめました。
 
これらの普及には、教育機関の役割が非常に大きいと感じています。教育は単に知識を教えるだけでなく、音楽や芸術の基盤となる感覚を育む場だと思うんです。
たとえば、桜を見て「美しい」と感じるだけでなく、日本人がそこに込める切なさや青春を想う感覚は、文化教育によって培われたものではないでしょうか。だからこそ、私は音楽大学や教育機関に対して、大きな可能性を感じています。将来的には、自分も何らかの形で教育に関わり、“和声の感覚”を多くの人に伝えていけたらと思っています。
 
このような考えの中で、東京音大が掲げている理念には、共感を覚える部分が多くあります。冒頭にも申した通り、「音楽とITを融合し、現代社会のニーズに応える」というビジョンは、まさに私が目指す未来と重なっています。社会の変化に応じた新しい学びの形を生み出す大学として、東京音大は大きな可能性をもつ場所です。
今年から始まったミュージックビジネス・テクノロジー専攻のように、新しい時代に即した学びの場が設けられることにも希望を感じます。“和声の感覚”の普及は私の夢であり、一生をかけて取り組んでいくテーマ。東京音大の先進的なビジョンのもと、自分の夢に向かって一歩ずつ進めることが、今の私にとっては大きな意義です。
 

 

― いろいろなお話をお聞かせいただき、ありがとうございます。最後に、東京音大の愛すべきところを教えていただけますか。
 
東京音大には、音楽に対して真っ直ぐな情熱をもった仲間たちがたくさんいます。
「ネコフィル」の活動を通して、目標に向かって協力し合い、新しい挑戦にも前向きな姿勢をもつ彼らとともに過ごせるのは、私にとって大きな励みです。中高時代にほかの音楽大学の学生とも交流する機会があったのですが、東京音大の学生は特にフレッシュで、常に新しいものに挑む姿勢を感じました。実際に自分も学生となり、そうした仲間たちと切磋琢磨できることに感謝しています。
また、大学の先生方や職員の方々から、私たちの活動を応援してくださるお声を多くいただいております。今後もこの恵まれた環境で学びながら、和声やクラシック音楽の魅力をさらに広げるために、仲間たちとともに努力していきたいと思います。

 
(総務広報課)