2025.03.14
2023年度東京音楽大学芸術祭の実行委員長を務めた細谷さん。挑戦と成長の1年間を振り返り、その思いを語ります。
― まず、芸術祭実行委員長に就任したきっかけを教えてください。
実は僕の場合、自分から芸術祭実行委員長に立候補したわけではないんです。本来は2年間各部署の仕事を行い、副実行委員長の経験を経て実行委員長になるのですが、僕の場合は1年生の時はコロナの影響で芸術祭がなくなり、2年生では前日だけ実行委員として少し準備に参加しただけ。その芸術祭2日目に突然先輩たちから呼ばれ、「来年の実行委員長をお願いしたい」と任命されました。ほとんど拒否権はなく(笑)、「せっかく指名していただいたのなら」という気持ちもあって、勢いで「わかりました」と引き受けました。
とは言え、それから数週間は「具体的になにをやるんだろう?」と頭を抱えることに。特に、最初の大きな壁は企画書の作成でした。大学の学生支援課から「まずは企画書を提出してください」と言われたのですが、「企画書ってなに?」というレベルで。
試行錯誤の末、芸術祭実行委員会の部署長たちと協力しながら80ページにもおよぶ資料を完成させました。
― 芸術祭実行委員会は約140人と大所帯の組織ですよね。そのリーダーとして、どんなことを意識しながら活動していましたか?
“上下関係を作らないこと”ですね。リーダーだから偉いというわけではないですし、気を遣っていたら思っていることを言えず先に進めない。学年や肩書きがあるのは仕方ありませんが、なにかを創り上げるうえではみんなが対等な関係でいた方がよいと思っています。自分もどんどん意見を出すし、みんなにも言ってほしいので、「好きなようにやっていこう!」と呼びかけました。同時に僕はリーダーとして責任をもつ覚悟と、全体の調和を大事にしていくことも強く意識していました。特に調和というのは、一人ひとりの音を重ねて心地のよいハーモニーを生み出すアンサンブルのように、音楽とも通ずるところがあると思っています。
また、顔を知らない人に指示されることは誰でも抵抗があると思うので、140人全員と顔を合わせて話すことを大切にしました。部署長との会議だけでなく、6つある部署ごとの会議や作業にもできる限り参加し、メンバーと直接話すことで、「この人が言うならやってみようかな」と思ってもらえる関係を作れるようにしました。毎日作業に追われる中、みんな苦しい状況だったと思いますが、これ以上できないと言いながらも最後までやり切ってくれたのは、遠慮せずに思っていることを言い合える関係ができていたからだと思います。
― 大きな組織を動かすうえで、特に難しかったことはなんでしょうか?
個人を尊重しつつ全体をまとめることですね。やはり140人全員が同じ方向を向き、歩調を合わせるのは難しい。それぞれのペースがあるので、個人のやり方も尊重したいけど、組織にとってはそれが最善ではないこともあります。組織全体が前に進むためには、メンバーに対して厳しい決断をしなければならないこともあり、非常に苦しい気持ちになったこともあります。でも、芸術祭が終わった後に、メンバーから「細谷さんは厳しい一面もあったけど、誰よりも考えて自分たちと同じ目線で話してくれたから最後までやり切れた」と言われたときは救われる思いがしました。時に厳しく接したことが理解されたことも、上下関係ではなく信頼関係が築けていたからだと思います。
― メンバーとの交流を深め、リーダーとして全体を見ながら準備を進めていったのですね。芸術祭のテーマについても教えてください。
“創”というテーマは、実行委員のメンバーからの公募を経て決まりましたが、僕がいくつか案を出した中から選ばれました。コロナ禍で中断されていた芸術祭を“ゼロから創り上げる”ことを表わすピッタリなテーマだったなと、今でも思っています。例年、英語や音楽用語をテーマにすることが多かったのですが、誰が見てもわかる一文字にしたかった。趣味で書道をやっている知見を生かし、シンプルさの中に力強さを込めました。
また、今回の芸術祭では地域連携も強化していきました。中目黒駅に横断幕を掲げたのですが、実は地域の清掃活動でたまたま町内会の方と話す機会があって、その場でアイデアを出したことがきっかけで実現したんです。ほかにも模擬店のテント周辺に灯した提灯で協賛を募ることができました。
思いつきから始めたことも、思い切ってやってみると、案外うまくいくこともあるんですよね。学生支援課や地域住民の方との調整は簡単なものではありませんでしたが、結果、皆さんから好評をいただくことができました。
芸術祭実行委員長による書道パフォーマンス
― 芸術祭実行委員長を経験した中で得た、最大の学びはなんでしたか?
“生きていく力”ではないでしょうか。活動していく中で、タイムマネジメントや文書作成スキルなどを身につけることができましたが、人を動かすための交渉力や分析力など、社会でも役立つ力を磨くことができたと思います。芸術祭の企画書作成では、何度も学生支援課から修正を求められ、最初は「ここまでやらなくてよいのでは」と思ったこともありました。でも、企画書の作成を通してやるべきことが明確になり、かつ自分で言語化しているので、みんなにも説明しやすい。振り返れば、これも人を動かすうえで重要な論理的に伝える力を鍛えるための時間だったと思っています。
また、やるべきことが山積みだからこそ目の前のことに集中して取り組むことが重要だと実感しました。芸術祭に携わった期間は個人練習の時間を確保することが難しくなり、だからこそ、1分1秒を無駄にせず練習をやり切るという強い意志が湧き出てきました。苦手なフレーズを何十回も集中的に吹く、といったように。おかげで卒業試験も高評価をいただくことができました。
こうした気づきや学びは、思い返すとほかにも出てきますが、なにより大きかったのは、人間関係の面で大きく成長できたことだと思います。140人のメンバーをまとめる中では意見のすれ違いもありましたが、そんな時こそ「どうすれば相手の立場を理解できるか」「相手を変えようとしていたけど、自分が変わるべきところは?」と考えるようになりました。これは音楽活動にも影響し、実行委員長を経験する前は演奏して終わりでしたが、「聴いてくれる人にどう届けるか」を考えるようになり、来場者の年代によって選曲を変えたり、聴いてくれる人がより楽しめる方法を考えたりするようになりました。
悩み苦しみながらも、決してひとりではできなかった芸術祭。楽しいことばかりではありませんでしたが、本番当日、会場に響き渡る拍手を聞いたときには、「やり切った」いう達成感とともに、苦しい時を一緒に乗り越えてくれたメンバーへの感謝の気持ちが込み上げてきました。苦しんだからこそ味わえた達成感は僕の一生の宝物です。そして今は、どんな困難があっても「あの芸術祭を乗り越えた自分なら大丈夫」と思える自信があります。それが、この経験で得た“生きていく力”といえる最大の学びだと思います。
芸術祭部署長たちと演奏
― 最後に、東京音楽大学を目指す方々にメッセージをお願いします。
東京音楽大学は、“可能性が無限に広がる場所”です。さまざまな個性や価値観をもった仲間と出会えるからこそ、自分の視野が広がり、新しい自分を発見できます。僕自身、芸術祭実行委員長を経験するなんて、入学当初は思ってもいませんでした。しかし、ここには挑戦を後押ししてくれる環境があり、それを支えてくれる仲間がいます。音楽はもちろんですが、音楽以外にも挑戦する経験は、きっとかけがえのない時間になるはずです。自分の「やってみたい」という気持ちを信じて、ぜひ飛び込んでみてください。努力した分だけ、必ずなにかが返ってきます。東京音大で、皆さんが自分らしく輝けることを願っています!
(総務広報課)