検索

よく検索される項目

【コンクール受賞者インタビューシリーズ】第11回 芝岡愛貴さん

芝岡愛貴さん

(「指揮実技Ⅰ」 聴講生)

第1 回ワルシャワ吹奏楽指揮者コンクール 第2位

 

ただ今50歳、睡眠時間は3時間。「きつい」ことはあっても、つらい」と感じたことはありません

 
 

  ― ワルシャワ吹奏楽指揮者コンクール第2位入賞おめでとうございます。このコンクールについて、また受けた動機などについて聞かせてください
 
ワルシャワ吹奏楽指揮者コンクールは、今年が初回ですが、ヨーロッパでは2つ目の吹奏楽指揮者のコンクールだと聞いています。アメリカなどでは講習会 の一環として、受講者が参加するコンクールというのはありますが、やはり「吹奏楽」に特化した純粋なコンクールというのはなかなかないと思います。

 

コンクールのことは、聴講生仲間から聞いて知りました。私は吹奏楽の出身ですから、まず「吹奏楽指揮者コンクール」という名称に興味を感じました。しかし調べてみると、吹奏楽」と銘打ってはいるけれど、課題曲に『春の祭典』が入っているなど、通常の指揮者コンクールと同等の内容であること、年齢制限がないこと、またコンクールがヨーロッパで行われること、これらにひかれ、最終的には指導教員の田代俊文先生に相談してエントリーを決めました 。

 

ヨーロッパという地にこだわったのは、「吹奏楽」といえど西洋音楽の延長ですので、その西洋音楽の生まれ育った土地で自分がどのように評価されるのかたいへん興味がありました 。
 
 


▲ワルシャワ吹奏楽指揮者コンクール ファイナル

 

  ― 今年11 月のフィリアホールでの「白熱教室」で広上淳一教授が「コンクール2位受賞というのもすごいけど、あの年齢で勉強を続けているというのは、もっとすごい」と言われていました。現在おいくつですか。またこれまで、どんなことをされてきたのですか
 
ちょうど50 歳です。確かにこの歳で勉強を続けていくというのは簡単ではありません。指揮を再び勉強しようと決めたのは40歳を過ぎてから。当時、吹奏楽イベントで指揮をして、自分の映像を見て愕然としたことがきっかけです。指揮棒と出てくる音が、まったく解離していました。音楽が自分の棒でドライヴできていなかったのです。プレイヤーにも観客にも申し訳ないという気持ちでいっぱいになり、もう指揮をやめてしまおう、とまで思いました。そんな時に交通事故で一カ月間自宅静養となり、自己と向き合い自問自答の日々を過ごしました。その頃はちょうどロンドン・オリンピックが開催中で、「選手が賞に行きつくまでに、いったいどれだけの努力をしたのだろう。それに比べこの私は…」と考えました。自分を育てくれたのは、中学校で出会った吹奏楽であり、音楽なのだ。音楽をやめることなど私はできない。
 
そこで一大決心をしたわけです。まず勉強をするためには、環境を整えなければいけません。仕事も、比較的自分でスケジュールを決められる労働形態に変えました。それでも勉強する時間を捻出するのはむずかしいので、睡眠時間は約3時間です。妻子がある身で、勉強して、仕事をして、子育てをして…
 
でも体力的に「きつい」ことはあっても、「つらい」と感じたことはありません。
実は音楽大学を中退していて、そんなところにコンプレックスがあるので、勉強できることがうれしいのです。家族に思いを全て話したところ、理解してくれて、バックアップしてくれました。勉強できる環境にいることを幸せに感じます。
 
 

  ― 現在、指揮の聴講生です。どのように学んでいるのですか
 
2度目の聴講生です。1度目だけではとても勉強が足りていないことは分かっていましたので、1年の間をおいて再び聴講生になりました。週1回の個人レッスンと合同レッスンを受講しています。個人レッスンでは田代先生に、合同レッスンでは広上先生をはじめ、多くの先生方から教わっています。個人レッスンと同時に、合同レッスンはほんとうにすばらしいレッスンと思っています。
<合同レッスン:学生有志がオーケストラを編成し、複数の指揮教員をはじめ、「プロオケ」の奏者など日本を代表するプレイヤーが、時にはオケに入りつつ特別アドヴァイザーとして受講生を多角的に指導するという本学ならではのレッスン
 
あの環境を用意するというのは、他の大学にできることではありません。見学するだけということもできますし、どのように参加するかは自由です。しかし勉強しようと思っている人が、有効に使わないのはもったいない。 自分の姿勢ひとつ、本気で勉強する気持ちがあれば、どこまででも勉強することができます。合同レッスンは、私が聴講生を続けている理由の一つです。
 
ここ数年で特別アドヴァイザーの先生の数が増えました。先生方がオーケストラに加わることで、あたかもプロオケの現場にいるような緊張感が生まれます。そこでシビアな指導を受けることで、普通なら卒業してからいきなり放り出されるプロオケの厳しさを、先取りして体験できるわけです。このような経験ができることに感謝しています。若い人たちは、これがたいへん恵まれた環境だということをもっとわかった方がいいかもしれません。またより多くの人にも来ていただきたいですね。受講生もギャラリーがいればテンションも上がります。合同レッスンで育てていただき、今回のコンクールに結びついたのですから、多くの方もここで勉強していただきたいと思います。オケの学生も、特別アドヴァイザーの先生方と演奏することでいい勉強になります。
 
 

  ― あらためて後進の人たちへのアドヴァイスなりサジェスチョンをいただけますか
 
管楽器をやっている学生は指揮に関心がある方も多いでしょうから、もっと合同レッスンに積極的に来てもいいと思います。吹奏楽に関わる人は指揮をする機会が多いです。プレイヤーとして一流になればなるほど指揮を頼まれるケースが増えますし、学校の先生も部活動の顧問として、指揮と直結しています。しかし直結しているのに、指揮の勉強を十分にしないまま自己流でやっている人がほとんどではないでしょうか。なぜか吹奏楽はオーケストラに比べると簡単に考えられている部分も少なからずあり、吹奏楽なら「なんとかなる」と思われがちです。しかしほんとうに、なんとかなっているのでしょうか?「吹奏楽コンクールで金賞をとりました」となると、それだけで「レベルが高い」という評価になりがちですが、イコール指揮者として能力が高いかというと、そうとは思えないところが少なからずあると感じています。まさに私がこの10年間その問題にぶつかり、必死で学んできたからこそ、そう思うわけです。
 
 

  ― 今度どのようにしていきたいですか
 
展望としては、吹奏楽を変えていければと言うととてもおこがましいのですが、そういう役割を自覚した指揮者でありたいと思っています。吹奏楽コンクールで賞をとったとなると、「賞をとらせてくれる先生」としてカリスマになってしまうことがあります。コンクール自体はとてもすばらしいのですが、音楽をやっていく中身が変わっていってほしいと願っています。コンクールに「勝つ」ことに夢中になり、「音楽」に向き合うことも、ベーシックな「楽しみ」も知らないまま、若い人たちが音楽大学を目指したりしていますが、私はそれを少し残念に思います。そして今回の受賞をきっかけにして、指揮者として何かお役に立てないかと考えています。私自身この10年で変われたように、「音」が変わる、「音楽」が変わることで、吹奏楽の現状を変えていくことができるのではないでしょうか。

 

  ― ある意味厳しい指摘も、それは吹奏楽に対する熱き想いから発するものであると感じました。これを機に、大いに活躍されることを期待しています。

 
 

(広報課)