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【卒業生インタビューシリーズ】第4回 アンナ リトヴィーノヴァ(Anna Litvinova)さん

アンナ リトヴィーノヴァ(Anna Litvinova)さん

音楽関連会社に就職

ミュージック・リベラルアーツ専攻(指揮)2021年大学卒業

  

音楽は世界の共通言語。本学では、卒業後に海外進学を目指す学生が多く、また本学で学ぶ留学生も年々その数を増しています。アンナ リトヴィーノヴァさんはロシアの高校を卒業後に来日。「日本のことが好きであれば、最初は難しくても、やがて慣れて理解できるようになる」と語り、卒業後は音楽関連会社に就職。「今はとにかく仕事が楽しい」のだそうです。

 
- 東京音楽大学に進学しようと思ったのはなぜですか?
 

映画放送に最初興味があってアメリカ留学も考えていました。私の故郷は、ロシアの東端にあるウラジオストーク。日本から飛行機でわずか2時間の場所なんです。親戚が20年ほど前から日本に住んでいて、私も8歳の時にはじめて日本に遊びにきていました。日本はやさしくて安全な国。日本に住みたいという気持ちが私の中にずっとありましたね。それで東京音大を実際見学した時、学校の雰囲気をすっかり気に入り、進学することに決めました。

 

- アンナさんにとって日本は馴染みのある国だったんですね。実際大学に入学してどうでしたか?
 

最初はとても苦労しました。1年生の頃は、いろんな問題や壁を感じていました。日本語もわからなくて日本の習慣もわからない。なにかをお願いするのも質問するのも大変でした。学校生活だけでなく、アパートのレンタルからガス、水道料金など日常生活においても大変さは同じで、外国人留学生ならみんなが感じるような悩みごとだったと思います。

 
- 徐々に慣れていきましたか?
 

日本人はみんなやさしくて、どこに行っても、「Do you need help ?」と声をかけられ、それに助けられた部分が大きかったと思います。
1年生の時は、留学生だけのサークルに入りました。周りの日本人学生はたぶん、私とは英語で話さないといけないのが怖くて、なかなか思うようにコミュニケーションが取れませんでした。そんな状況を打開したくて、2年生から日本語を一所懸命勉強して、日本語で投稿するインスタグラムをつくりました。それがきっかけとなって、「あの子は日本語が話せるかも」と、話しかけてくれる人がだんだん増えていきました。

 

- 日本の学校生活にもだんだん慣れて、学業の方はどうですか?
 

1年次は、新設したばかりのミュージック・リベラルアーツ専攻でピアノを学び、2年次から専門実技を指揮に変更しました。新しいことにいっぱい触れて、1年生を2回経験したような感じでしたね。専門実技の変更に際し、職員の方からさまざまなサポートを受けました。私の経験がほかの学生にも役立つことがあればうれしいです。

 

 
- 日本の音大で学んで音楽に対してなにか変化がありましたか?

 

音楽は世界の共通言語。同じクラシック音楽を聴いて演奏する時、日本人とロシア人では、同じようにアプローチをすることも、違うアプローチをすることもあると感じました。音楽に対するアプローチの仕方の違いや共通点に触れることができて、さらに第二副科ピアノや指揮などでたくさんの演奏機会にも恵まれました。日本で勉強できたのは私にとって間違いなくいい経験になったと思います。

 

- 順調な学校生活が伺われますね。
 

実はそうでもないんです。大学入学までに習ったことがなかったスコアリーディングの授業をはじめて受講したのですが、ほかのみんなにできて私にできないことを大変厳しく言われ、「音楽はとても好きだけど、やれる気がしない」と気分がとても沈みました。それで、ロシアの実家に戻ってしばらく音楽から遠ざかっていました。3年次の終わりころでした。

 

- それからどうしましたか?
 

心理学者でもある叔母のもとへ毎週カウンセリングを受けに行きました。もともとメンタルヘルスの管理にはあまり関心がなかったのですが、これを経験したことで、体に不調があれば病院にかかるのと同じ感覚で、心が不調になった時はすぐに心療内科を受診することが大事だと思うようになりました。

 

- 心が疲れている時の無理は禁物ですね。

 

はい。ロシアで休息していた期間中は、両親から日本に戻りなさいとひと言も言われませんでした。「このままロシアにいても、日本に戻ってもどちらでもいいよ」と言ってくれて、とてもやさしく丁寧にサポートしてくれました。周りの人たちに支えられて、少しずつ元気を取り戻し、日本に戻ってくることができました。

 

- とてもやさしいご両親ですね。音楽をされるのですか?

 

いいえ、まったくです。母は大学で歴史を教えていて、父は弁護士です。私のやりたいことをいつも応援してくれるようなとてもやさしい両親です。
 
- そして今年3月に無事に卒業。卒業後の進路は?

 

 
音楽プロデュースの会社に就職しました。コンサートマネージメントや、海外とのコンタクト、コンサートプログラムづくりなどいろいろな仕事をしています。音楽の仕事を見つけることができて本当にうれしかった。マスタークラスで知り合った先生や、指揮をとおして得たさまざまな経験が仕事に役立っています。今はとにかく仕事が楽しいです。

 

- アンナさんの将来の夢を教えてください。

 

ロシアは今政治的にとても難しい時期です。ロシアに住みたいけれど、多くの知識人が海外での生活を選んでいます。そんな状況の中で、ロシアと日本を結ぶプロジェクトをやってみたいなあと。怖いと思われがちですが、ロシア人はみなさんが思うように怖くないんですよ。私のような普通の人たちなんです。
ロシアと日本をつなぐコンサートを企画して、聴きに来てくださるお客さまが、私たちの音楽をとおして、喜びだけではなく時には悲しみも含めて、何かを考え、感じとってくれるようなきっかけとなれたらこれ以上うれしいことはありません。

 

- ぜひ実現してほしいと思います。アンナさんにとって音楽とはなんですか?

 

愛。愛ですね。

 

- 胸が熱くなります。最後に東京音大の学生にメッセージをお願いします。

 

まずは日本人学生のみなさんに対して。
気をつけてください。日本人はみんなとてもがんばり屋さん。ロシア語でがんばるという言葉がないんですよ。がんばればその分結果がついてきますが、とても危険な面があると私は思います。私自身の経験からも心のケアが遅れてしまうことの怖さを知っています。東京音大の学生は頭がよくてやさしい上、みんなすごくがんばっている。がんばるのはいいことですが、体や心もぜひ大事にしてほしい。気をつけてください。そしてプロとして息の長い活動をしてください。
 
次に外国人学生に対して。
日本に行きたい、住みたい人はたくさんいると思いますが、日本のことは好きですか?もし日本が好きではなかったら、やめた方がいいと思います。日本は欧米とはまったく異なる世界です。でも、もし日本のことが好きであれば、最初は難しくても、話し方や習慣にだんだん慣れて、やがて理解できるようになると思います。
 
- 貴重な話をありがとうございました。これからもアンナさんらしく、音楽を楽しんでください。応援しています。
 
(広報課)