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【卒業生インタビューシリーズ~TCMの先輩たちの今】第5回 中西雅子さんを掲載しました

中西 雅子さん

弁護士

ピアノ演奏家コース1986年大学卒業 国立音楽大学附属高等学校卒業

  

本学で音楽を学び、現在弁護士として活躍している卒業生が3名いらっしゃいます。関連性がないようにも思える音楽と法曹の仕事ですが、依頼者との信頼関係づくりや、人を説得する際のコミュニケーションにおいて、音楽の学びをとおして身につけた力がしっかりと生かされているそうです。

 
- 中西さんの今のお仕事について教えてください。
 

個人の事件が主で、不動産、家族の問題、相続・離婚、子どものこと、借金、ネットの誹謗中傷で削除・損害賠償など、相談や交渉をはじめ、さまざまな調停や訴訟を取り扱っております。

 

- 音大を卒業して弁護士になるというのは異色のケースだと思いますが、弁護士の仕事に音楽を学んだことが役に立っていますか?
 

東京音大を卒業して弁護士になったのは、私以外にもいらっしゃると聞いていますが、珍しいケースだと思います。
依頼者は、皆さん人生で重要な問題に直面した時にいらっしゃるので、信頼関係がベースにないと本当のことを話していただけません。さらに人間同士のトラブルに、理屈や論理ばかり当てはめてもなかなかいい解決にならなかったり、たとえ判決が出ても本人が納得できないと事態がさらに深刻化することもあります。ですので、普段の仕事において心がけているのは、まず依頼者に寄り添い、人間の本質的なところ普遍的なところを踏まえながら、自分もその立場に立って考えながら話をする、アドヴァイスをすること。気持ちを動かしてもらうためには、言葉だけではなく、目に見えない部分が大切だと考えています。
この時、音楽をとおして学んだこと、非言語的なコミュニケーションが力になっているのを実感します。音楽って、言葉にならないところのコミュニケーションをとるでしょう?自分から発信して、アンサンブルで相手の発信を受け取って共感し、調和してまた発信することでひとつの作品を作り上げていく。そういうことを音大の学生は意識せずに普段やっている。弁護士の仕事では、相手の意見を聞いて理解し、自分の考えとバランスをとりながら調和させて一個一個解決していくので、その“作業”が音楽と似ているように思います。知識の習得も大事ですが、勉強以外の力が必要な場面が多々あるということを仕事をしていて思います。

 
- では、話を最初からに戻します。法曹を目指したきっかけを教えてください。
 

学生時代はピアノを専攻していました。卒業して、主に教えることを中心に音楽を続けていましたが、なにか物足りなさを感じて、もっと自分のもっている力がダイレクトに結果に出てくるような仕事はないかと、資格の本を駅でよく見たりしていました。
司法試験に興味をもって調べたら、法学部を出なくても試験を受けられるとわかって、よしやってみよう、となりました。予備校で受けた講義がおもしろくて、音楽一筋でお堅い勉強をしてこなかった分、まるで乾いた砂が水を吸うように知識を吸収していき、法律の勉強にのめりこんでいきました。
「自己実現」や「表現の自由」という言葉が憲法の中に出てくるのですが、私にとって自己実現のためにがんばってきたのがピアノや音楽であり、こうして法律を勉強することもまた同じく自己実現のための道を歩いているんだなと思うと、どこかで感じていた挫折感のようなものからも解放されましたね。憲法でのもともとの意味は国家権力を縛るというものですが、当初の私は、「自己実現」という言葉に、自分の方向を変えること、自分の具体的な変革を進めていくというような反応をしていました。
けっこう時間がかかりましたが、弁護士になりました。

 

- 試験に受かるまでにどれくらいかかりましたか?
 

10年近くかかりました。今思えばよく続けられたなと思います(笑)

 

- すごいエネルギーですね!

 

すごくないですよ。音楽をやっている人はみんなエネルギーをもっていると思います。音大に来る方は、自分のもっているものを発信したり表現してきた人たちなので、もともと受け身ではないわけです。さらに音大に入学すると、周りからもいろいろな刺激を受けることでエネルギーが倍増していくんじゃないかと思います。音大生やそれを目指す人たちがもっているエネルギーの量は、「熱いぜ!」って、本当に思いますね(笑)

 

- 「熱いぜ!」シリーズを読んでくださってありがとうございます!弁護士になってからはどうでしたか?
 

司法修習へ行くと周りは東大法学部やそんな方ばかりなので、自分なんかがいていいのかな、と最初はすごく委縮しました。1年半くらい経った頃、同じクラスの人に、「音大を出て司法試験に受かって弁護士になるなんてすごくかっこいい!尊敬する」と言われ、少しほっとしました。でもやはり慣れるまでに時間もかかったし、ずっと緊張していました。
100%の結果ではないと思うのですが、依頼者の方から「先生にお願いしてよかったです」と言われることが一番です。音楽と同じで、やった仕事に相手の人が喜んでくれることで自分のエネルギーにまたなるんですよね。
依頼者、対立相手やその弁護士、裁判官を説得しないといけない時、冒頭で言った非言語的なコミュニケーションが割と自然にできるので、今は音楽を学んだことが自信につながっています。

 

 
- なるほど。先生の言葉にはとても力があると思います!ところで、今の東京音大をどう思いますか?
 

私が在籍していた当時のカリキュラムと校舎とは全然違って、すごく充実していてうらやましいです。
リベラルアーツがあったり、自分で考える、自分で答えを見つけていく力がつくようになっているんですね。「西洋音楽史」などで歴史の流れを習いつつ、グローバルな世界観をもつことで、縦にも横にも軸ができる。すごくよく考えられているカリキュラムだなと思います。

 

- 最後に若い後輩たちへメッセージをお願いします。

 

音楽を学び、レッスンを受けるというのは、自分がもっている能力を磨いて引き出してくれて、つまり精神を自由にさせて新しい自分を出してくれること。いろいろな刺激が目に見えない形でインプットされていくことで、エネルギーの高い人はトライ&エラーで挫折しつつも答えを見つけ出していける。継続することで自分の中にある目に見えない形の能力がなにかの時に閃き、飛び出して形になっていくのだと思います。
多様性や時代の変わり目と言われ、不確かなところがある中、自分の置かれている現在地を客観的に理解して、日本だけではなくグローバルの中で捉えていく大きな世界観をもってほしい。そして、音楽をとおして身につけたものを武器にして、自分の頭で考えて道を見つけ、それを信じて革新的にやってほしいと思います。音楽で身につくものがいっぱいある。それら必要なものがそろっているバランスのいい大学だと思います。ここで学んだことは確実に目に見えない力になるので、自信をもって信じて!

 

- 中西さんはお忙しい中にもかかわらず、「音大生の香り」を嗅ぎたいと中目黒・代官山キャンパスまで来てくださいました。恩師の武田真理先生にも再会することができ、今の東京音大に目を輝かせていました。力強いメッセージを本当にありがとうございました。
 

 

(広報課)