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【卒業生インタビューシリーズ~TCMの先輩たちの今】第8回 伊熊 よし子さん(前編)

伊熊 よし子さん

音楽ジャーナリスト 音楽評論家

音楽教育専攻1972年卒業 長野県立松本蟻ガ崎高等学校卒業

  

大学生に人気の就職先のひとつ「マスコミ業界」で50年近く活躍されている本学音楽教育専攻卒業生の伊熊よし子さん。音楽専門誌の編集長をはじめ、音楽評論、一般誌の執筆、著作業までこなす憧れの(大)先輩へのインタビューを、2回に分けて掲載します。

 
- 音楽ジャーナリストのお仕事について教えてください。
 

音楽のジャンルや雑誌のコンセプトに合わせて、アーティストへのインタビュー取材をして、記事にまとめ上げて・・・この業界で百回以上も海外取材したのは、私ひとりだけかもしれません(笑)。とにかく「人に会う」ことからはじまる仕事です。

 

- 業界に入られたきっかけは?
 

卒業後レコード会社に就職してバロックのレーベル担当になったんですけど、それがすごくプラスになりました。一般企業に入って何が大変かっていうと、クラシック界の常識だと思われることを、もう全然知らなかったんですよ。「音大で何を勉強してきたの?」と言われて。世の中ってまったく違う風に動いているんだっていうことにその時はじめて気づきました。
 

 

- 大学時代はどんな学生でしたか?
 

4年間ですごくいろんなことを学びました。でも目先のことばっかり一所懸命やっていたので、この仕事をはじめた時に、もっと将来のことを考えて勉強しておけばよかったと思いました。
 

 

- それはどうしてですか?
 

例えば会議の時に、業界のことを何も知らないから置いてきぼりになっちゃうんですよ。私の時代もそうでしたけど、音大生はとにかく自分のレッスンのことだけで精一杯になりがちで、クラシック界全体を俯瞰で見ることの大切さを知らないし、その勉強もしていないんですよね。泣きの涙で本当に一年以上、もういろんな人に聞きまくって全部メモをとりました。若さもあって周りも教えてくれましたけど。ある時、「会員のための冊子を作りなさい」と言われて、もちろん編集のことも何ひとつわからなかったのですが、演奏家にインタビューしたり、偉い評論家に文章を書いてもらったり、それを何サイクルが作っているうちに、「編集ってすごくおもしろいな」と思うようになったんです。それで編集に転向して、「ショパンの編集長をやってくれないか」となりました。

 

- 取材時のエピソードなどお聞かせください。

 

大変な人がいっぱいいます(笑)小澤征爾さんのインタビューは特に大変でしたね。とにかく時間がない。雑誌のオペラの企画でリハーサル中に時間が取れると言われ、カメラマンと編集者と私とでスタンバイしていたんです。でもリハがうまくいかなくて、「違う、違う」と熱が入りどんどん時間がおしていきました。(ようやく終わって)小澤さんは、汗だくで私の顔を見て、「あんたさ、俺のことなんでも知っているから、任せるから全部書いて」と言われて。そういうわけにもいかないのでなんとかお話を伺えたのですが、これがもう記事になりにくいお話ばかりでとうとう時間切れになってしまいました。編集者も青ざめて、仕方がないので、私がリハを聞いてどこをどういう風に直したかを書こうとなりました。雑誌の取材は長年やっていますが、同じことをやっているのにどうしていつも問題が起こるのかと不思議になりますね。
ひとつの仕事がなんの問題もなくスムーズに行くことは実際あまりない。それらにいかに対処していけるのかが経験なのだと思います。音大生が世の中に出て、問題にぶつかった時にどうやって対処すればよいかと、皆さん最初はすごく悩むと思います。でも、それを乗り越えていかないと社会では生き残れないし、いい仕事をさせてもらえない可能性もある。だからこそ、自分は本当に何をやりたいのか、どういうことを目指しているのか、自分としっかり向き合うことが仕事をしていく上で大切になってくると思います。後編へ続く
 
【伊熊よし子さんプロフィール】
1949年東京生まれ。1972年3月東京音楽大学卒業(音楽教育専攻)。同年ポリドール株式会社入社。1978年東京音楽社入社。1985年月刊『ショパン』副編集長就任、のち編集長に。1989年独立し、フルーに。現在『Hanako』『文芸春秋』『レコパル』『FMfan』『MARCOPOLO』『YAMAHA FC VOICE』『音楽現代』『ぴあ』をはじめ各誌に寄稿。
http://yoshikoikuma.jp/
 
(広報課)