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【コンクール受賞者インタビューシリーズ】第8回 髙野裕也さん

髙野 裕也さん

(長野県立長野高等学校・東京音楽大学卒業・大学院作曲指揮専攻作曲研究領域2年)

第88回日本音楽コンクール 作曲部門 第2位入賞

 

奏者とやり取りしながら作品を聴くという体に還ってくる喜び

 

 

― 日本音楽コンクール作曲部門 2位受賞、おめでとうございます。はじめに、今回のコンクールを受けたきっかけを教えてください
 
いままで大きな編成のオーケストラ作品は数多く書いてきました。そこで室内楽という引き締まった編成の中で自分の表現を見つけてから、大学院を修了したいと思ったのです。一般的にはオーケストラの方が書くのがむずかしいように思われがちですが、室内楽とオーケストラでは表現していく部分が違うわけです。室内楽の引き締まった表現で書いていくことは、非常に技術が必要となりますし、表現の方法として自分にとって魅力がありました。今年は室内楽作品が課題だったので、それが応募した一番のきっかけでした。
 
 

  ― 指導教員からのアドヴァイスは
 
 個人レッスンは藤原豊教授と糀場富美子教授に。院ではゼミ形式が多いうえ、作曲研究領域は学生数も少ないので、幾人かの先生から非常に近い距離での指導を受けています。
 今回は特別に室内楽に限ってというわけではなく、「もう少し大局的に、曲を書き進めていってある程度自分がこれでいいやという納得できるところまでいったら、次の曲を書きなさい。細かい所を突っ込んでいけばきりがないので、次の曲にいきなさい」と、はっきり言われました。ですからコンクールに提出する前は、違う曲の構想を練りはじめていました。それが糀場教授からの印象深いアドヴァイスでした。
 また、一般的に作曲の学生は楽譜の見た目としてのエクリチュールにも芸術的価値を感じて追及します。これは当然のことです。しかし一方で演奏家のことも考えなければいけない、実際に演奏家が楽しいかどうか(これはやりがいがあるという意味)です。このことを前から言われていました。今回はそれを意識して書きました。
 
 

― コンクール前に苦労された点は
 
 基本的なことですが、譜面のチェックです。例えば、初演ならばリハーサルの段階で多少は直すこともできます。しかしコンクールのように演奏する提出物として出すときには、違った意味での精査が必要で、かなり気を使い、できたと思っても細かくチェックしていかなければなりません。本番まで気をつけねばならない苦労した部分でした。
 
 

― このコンクールを通して新たに学ばれたことは
 
 今回はNHKのスタジオで受賞曲を収録しました。リハーサルで音を出していただいた時、楽器の奏法のこと、楽譜のエクリチュールの改善点、自分の表現したいことと技術的な面がうまく噛み合っているか、さらに収録といえ本番のような緊張感など、多くのことに気づくことができました。今回の反省点を踏まえ、音を出したうえではじめて見えてきたものを生かしながら、新たな作品を目指したいと思います。
 作家の場合ですと、作品を書いたら、読者がそれを読んで、なんらかの感想を持ちます。作曲のいいところは、作る喜びだけではなく、本番・リハーサルで奏者とやり取りをしながら、それを聴くという体に還ってくる喜びがあるのです。それが音楽ならではの作曲の喜びです。
 
 

― 指導教官、また後輩の学生たちに一言
 
レッスンで指導していただいているお二人の教授、大学院ゼミでお世話になっている先生方にはほんとうに感謝しています。
卒業生で先輩の薮田翔一さんがラジオ講座で、「コンクールを受ける時は、いかに自分が得意とするフィールドに持っていくかが重要だ」と話されていました。一例として、楽器を弾く人なら、その楽器を編成に入れるとか、いろいろあるわけです。音楽的なことが一番重要ですけど、どうやってそれをアピールするかを考えることが、コンクールを受けるにあたってはいいのかなと思います。私自身はピアノとヴァイオリンを演奏しますので、今回のコンクールでは、それらの楽器を編成の中に入れましたし、作品のコンセプトと離れない範囲で、その楽器を意識して曲を書きました。
 
 

― 院を含め東京音楽大学の魅力は、どんなところにあるのでしょうか
 
「芸術音楽」だけを、また「商業音楽」だけを学ぶ学校はいろいろあると思いますが、本学は両方のコースの歴史が深く、なおかつ両コースともに高いレベルにあるというのが、他の学校にはない特長です。私自身は、商業音楽の道に進むと決めているので、たいへんに魅力的な学校です。
 
 
― そもそも、どうしてこの道に進まれたのですか
 
幼少の頃から音楽はやっていて、音楽科のある高校に行こうかとも考えたのですが、地元の学校に作曲コースがなかったので、普通高校に進学しました。その時にあるベテラン作曲家が(後年助手という形で師事することになるのですが)放送音楽についての講義を東京でやるということで、日帰りで聞きに行きました。地元でピアノやヴァイオリンを習っていても、職業としての音楽家の実態はわかりません。しかしプロの作曲家を目の当たりにして、職業音楽家が身近に感じられました。それがきっかけになり、作曲をきちんとやりたいと思い、エクリチュールなどの勉強をはじめました。
ピアノやヴァイオリンを弾くのは好きですし、マルチな人間が重宝される風潮があるかもしれませんが、私は「これが私の専門です」という一本の旗が立っていることが必要だと考えます。ですから演奏活動はしないと決めました。
 
 

― すでに作曲家として仕事をされている中で、大学院に進んだ理由は何ですか
 
在籍しているのは、大学院の作曲研究領域の中の「応用」という研究領域です。ここでは何を書くかは比較的自由なのです。この研究領域が新設された2018年に入りました。商業音楽について学びを深める際に、作曲「映画・放送音楽コース」の数名のスタッフがサポートしてくださるカリキュラムもあります。
卒業後いろいろな仕事をしていく中で、放送音楽は、“fixed music”、つまりプログラミングやレコーディングをした上で、音楽として媒体に固定化したものを納品します。しかし、雲井雅人サックス四重奏団とコンサートのプロジェクトを組んだとき、メンバーの皆さんに音を出してもらった瞬間に、すごい感動を覚えました。もちろんフィックスもやりがいがありますし、商業的なメディア案件は注目されるので、私のようなフィールドにいる多くの人はそちらのみを目指します。しかし普段そういった分野にいたとしても、優れたクラシックのアーティストの方々と一緒にプロジェクトをやり続けるためには、楽譜をしっかりと書けなければいけない。雲井雅人サックス四重奏団の皆さんと出会ったときにそう感じました。それを学べる領域があるから、院に進んだのです。
 
 
― 広く、音楽を目指す若い人たちに、アドヴァイスはありますか
 
高校や大学、大学院の頃に、コンクールなどやれることは全部やっておくべき、と言いたいです。30代・40代になってずっとコンクールを受けているのは、個人的には賛成しかねます。音楽は何歳になっても、勉強をしていくものなのですけれど、ある程度責任のある仕事をやりはじめたら、一緒にやる人のことを考えて、勝ち負けが出るものはやらない方がいい。私は既に仕事をはじめていますが、今回は学生だということでコンクールを受けました。学生のうちになるべくコンクールなどの経験をしておいたほうがいいんじゃないかな。学部にいた時は気が付きませんでしたが、いったん卒業して仕事をはじめ、再び院生として帰ってきたときに、それを強く感じました。
 
 

― 興味深い話をうかがうことができました。これからのますますのご活躍を期待します    

 
 

(広報課)