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【在学生インタビューシリーズ】第4回 奥山羽衣さん

奥山 羽衣さん

(ヴァイオリン4年 東京音楽大学付属高等学校卒業)

2019年シンフォニーオーケストラ定期演奏会 コンサートミストレス

 

難易度が高くなじみのない選曲に戸惑い、コンサートミストレスを「やらなければよかった」とさえ思ったという。自主練習を重ねて迎えた本番。下野竜也先生から「ぞくぞくした」とお言葉をいただき、大学4年間の集大成というにふさわしい演奏会となったそうです。

 
 

■ 戸惑い、つらかった日々

 

下野先生の選曲で6月頃に曲目が発表され、「本当にこれをやるの?」とかなりびっくりな内容でした。三善晃の『管弦楽のための協奏曲』は聴いたことがなくソルフェージュ的にも非常に難しい、バルトークの『管弦楽のための協奏曲』は大曲、ベートーヴェンの『交響曲 第2番』に至ってはベートーヴェンの中で3本指に入る難しさ。あえてこれを学生にやらせたいと下野先生がおっしゃっていました。

 

3泊4日の夏期強化合宿で下野先生と初顔合わせをした時は、準備が全然足りなくて、1日目に穏やかだった先生が2日目からだんだん厳しくなっていきました。先生はとにかく耳がいい。ほんの少しずれるだけで厳しい視線が飛んでくる。今から考えれば本当にひどいできでした。「自分の演奏しかしていなくて、指揮者を見ていない、アンサンブルができていない」と。そのとおりなんです。難易度の高い曲をあまり下準備もせずに臨んだから。楽譜から目を離して指揮者を見る余裕がありませんでした。

 

加えて先生は知識も豊富。「ベートーヴェンの2番は、耳の異常に気付いていて『遺書』を書いた後に完成させた曲で、どんな思いで書いたのか、どうしてそれを演奏に現わさないのか?」と聞かれたりしました。また、「反応がない、みんなののっぺらぼうのような表情が怖い」と言われました。みんなの反応が見たくて、わざと‟トゲのある言い方”で言ったと後から言われました。そこは指揮者の顔をしっかり見ていれば、どういう風に演奏すればいいかは伝わってきます。それがわかったのはかなり後になってからでした。合宿中は食事の時間以外はすべて練習に費やしましたが、それでもうまくいかず、あまりのつらさに何度も泣きそうになって、やらなければよかった、とさえ思いました。

 
 

■ 自主練習を重ねて迎えた本番

 

合宿最終日に行われた「癒しの森コンサート」では、下野先生が一所懸命声と動きで私たちを引っ張ってくださり、なんとか最後まで弾ききることができました。それを繰り返さないためにも、下野先生の次の指導日までに曲の理解を深めて、完成度を上げたいと思いました。団員一人ひとりそれぞれで考えながら練習を進めました。分奏での自主練習もしました。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのトップ合わせも何回もしました。そうして、本番1週間前までに先生がほしい音に応えられるレベルになったのではないかと思います。あんなに苦悩した曲も美しい曲なんだと感じられるように。

 

本番では、ピリッとした緊張感の中、合宿時とは比べ物にならないほどの演奏ができたのではないでしょうか。下野先生から「ぞくぞくした」とお言葉をいただき、続けてきて本当によかったと思いました。

 
 

■ オーケストラをやる上での基本が身についた

 

私は今回の演奏会で、これまでの経験と比にならないほど成長したと思います。コンサートミストレスは、自分が前面に出て演奏するのではなく、後ろの奏者たちを弾かせる立場で、指揮者をよく見て、その意を汲んで果敢に指示を出さないといけないことなどを会得しました。付属高校時代から何度かコンサートミストレスを務めてきましたが、これまでは弦楽器パートしかカバーしてこなかったことに気付かされました。バルトークでは管楽器とからむ部分が多くて、管楽器パートへの指示出しも意識してできるようになりました。

 

実は、私は1、2年次に必修でオーケストラ授業を取り、3年次はソロや室内楽に没頭していてオーケストラから1年間離れていましたが、オーケストラ授業を続けてきた友人たちが着実に合奏スキルを磨いて上達しているのを見て、オーケストラを学ぶ大切さを実感し、4年次で1年ぶりにこの授業に戻ってきました。コンサートミストレスに指名された時は、すごい先生に指揮していただけると知ってわくわくしました。指揮者が要求する音に対して、各パートを指導する先生がそれに応えるための弾き方などを的確に指導してくださる。指揮者と楽器の教員たちの連携のとれた指導で学ぶことの多い授業でした。

 

大学のオーケストラでは、たくさんの指揮者の先生に振っていただいて、指揮者によって音楽が変わるということも実感しました。また、どんな風な演奏にしようか、管楽器の人ともいろいろ話しました。これから活躍しそうな優秀な人が多くて、一緒に演奏できてうれしかった。

 

ひとつの曲をこれだけ長い期間中一緒に勉強できるのは音楽大学にいる間だけ。とても貴重な時間でした。ここで培ったことが今後オーケストラをやる上での基本になっていくのではないかと思います。

 
 

■ 一般大学ならこんなに悩むことってあるのかな?

 

一般大学に行ってもこんなに悩むことってあるのかな?と思う時があります。音楽大学にいると本当にいろんなことを考えさせられます。音楽で食べていくためには何がなんでも実力をつけないといけないし、精神的にも強くならないといけない。人間関係も大事。室内楽やオーケストラをやっていて特に思うのは、みんな個性が違うので、音楽を学ぶ難しさ以上にいい人間関係を築かないと音楽が成り立たない。正科のオーケストラ授業以外からも多くのことを学びました。指揮合同レッスンでも広上淳一先生の言葉がすごく勉強になりました。

 

小2からこの学校の付属音楽教室に入室して、付属高校、大学とずっと東彩子先生にヴァイオリンを習っています。東先生は芸術全般に精通されていて、理論面、イメージ、運動面、あらゆる方面から教えていただきました。本当にいい先生に巡り会えたと思います。

 

もうすぐで卒業ですが、来年はマスタークラスをいろいろ受講して、翌年には留学を目指したいと考えています。東京音楽大学はいい先生ばかりで、自分から学びにいけばたくさんのことを学べます。有志でもなんでもいい、とにかく何かをやってみれば必ず学べることがあって、いい仲間もできる大学です。

 

 
 

【広報課員のつぶやき】

 

野島稔学長が大学案内のインタビューで、「東京音楽大学は、音楽と真摯に向き合う学生たちのエネルギー、それに対峙しさらなる情熱を以て指導にあたる教員たち」とおっしゃいました。泣きそうになるほどのつらさ、どうしてこんなに悩むんだろうという戸惑いを超えて音楽と真剣に向き合っていく。指導にあたる教員の目には、その先に一皮も二皮も剥けてたくましく育っている教え子たちの姿が見えているのでしょう。下野竜也先生にもお話を伺いたいと思います。