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【コンクール受賞者インタビューシリーズ】第12回 若林毅さん

若林 毅さん

(器楽専攻テューバ 2017年大学卒業、東京音楽大学付属高等学校卒業)

第36回日本管打楽器コンクール テューバ部門 第1位

 

~とにかく楽しく、ピアニストと一緒にいいステージを作れたらと思っていたら、それが結果として1位に~

 

 

― 日本管打楽器コンクール テューバ部門第1位受賞おめでとうございます。まずコンクールのこと、たとえば受けるきっかけなどを聞かせてください
 
■ きっかけ
日本管打楽器コンクールはテューバにとって国内の一番大きなコンクールです。参加したこれといった明確なきっかけはありませんが、強いて言うなら「そこに山があるから」でしょうか。

 

■ 本番を迎えるにあたって
在学中、1年と4年の時にもこのコンクールを受けましたが、その時はたいへん神経質になっていました。そこで今回は精神的に余裕をもたせるために、とにかくコンクール期間中は「笑顔」でいることを念頭において取り組みました。眉間にしわが寄った状態で演奏しても、聴く人も楽しめませんから。なるべくおおらかな気持ちで過ごすように心がけました。また、オーケストラのエキストラをはじめ仕事をしながらの参加でしたのでソロの練習とのバランスをとることにも気を遣いました。
あとは初めて願掛けに行きました。パワースポットとして有名な埼玉県の神社でお守りを買ったり、献血に行ってみたり。(笑)

 

■ 受賞に際して
結果発表は貼り出しだったのですが、結果を知った瞬間は自分が自分でないような不思議な感覚になりました。今回も「絶対優勝する!」という強い意志はありましたが、そればかりだとプレッシャーに負けてしまうので、とにかく楽しんで音楽をするということが一番の目標でした。人と比べるのではなく、自身と向き合いピアニストと一緒にひとつのステージを作ろうと思っていたので、それが1位という形になって本当にうれしいです。
 
 

― 今回の優勝で、新たな目標が生まれましたか
 
もちろん世界中にコンクールはたくさんあるので、今回の経験を糧に積極的に挑戦しようと思っていますが、優勝を経て生まれた目標はこれといって特別にありません。ただ、この1位は勝ち取ったというより審査員の先生方に「選んでいただいた」ものなので、音楽家として、人としてもっと成長していかなければという責任は強く感じています。

 


▲ 日本管打楽器コンクール 特別大賞演奏会終了後 (指揮:山下一史)    
 

― 師事された先生について
 
 東京音楽大学の付属高校から大学2年まで田中眞輔先生に、3年からは次田心平先生にご指導いただきました。両先生ともに、「指示」より「提案」に近いご指摘で私に主体性と積極性を与えてくださり、「自己満足ではなく、音楽は伝えるもの」、「音楽性は人間性」など音楽家に必要なことをたくさん教えてくださいました。楽器の技術的なスキルも、「それを使って自分の思いをダイレクトに表現をすること」、「どんな練習や曲も常に音楽的に」という考えは今後も実践し続けるべきとても大切な教えです。
 
 

― 若い人へのアドヴァイス、もしくは学生時代にこうすればよかったというようなことはありますか
 
 後者はたくさんあります!大学生の時は自分で言うのも恥ずかしいですが、必要以上にストイックな期間だったと思います。卒業してから、在学中はもっとみんなと仲良くやっておけばよかったかなと振り返っています。芸術に関わる人にとってひとつのことに没頭する期間はとても大切ですが、それは殻に閉じこもることとは違うと今にして思っています。積極的に人と関わらないと音楽はできません。特に管楽器は基本的にはアンサンブル楽器なのですから。オーケストラに客演したりするとそう感じるのです。尖(とが)って得てきたものもあるので過去の自分を否定はしませんが、視野は広い方がよい!戒めの意味も込めて、学生の皆さんへのアドヴァイスです。
 
 

― オーケストラの客演の話が出てきました。そのことを聞かせていただけますか
 
 プロの仕事を初めていただいたのは大学3年の時です。次田先生が初回のレッスンの時に気にかけてくださり、その後某事務所に電話され紹介してくださったのがきっかけでした。自分の力を100%以上引き出せるよう十分に準備をして各現場にも臨み、段々と仕事が広がっていきました。
 
 
― 東京音楽大学の思い出は
 
 一番の思い出は4年生の時にSオケ(4年生の弦管打学生がメインのオーケストラ)の定期演奏会と音楽大学オーケストラ・フェスティバルでマーラーの第5交響曲を演奏できたことでしょうか。若いうちはなかなか演奏するチャンスのない曲です。指揮の秋山和慶先生のもとでこの大曲に取り組めたことはとても刺激的でした。

 

 仲の良し悪しはさておき(笑)、友人や先輩後輩をはじめ、高校・大学といろいろな人とアンサンブルができたことも財産のひとつです。付属高校から大学卒業まで私が通った期間には今現在も活躍しているすばらしい仲間が多くて、本気でディスカッションしながら本番へ向かった日々は今の私を構築した大切な時間でした。

 

また大学では、よくマスタークラスが行われていて、違う楽器のものを覗きにいくのも好きでした。
聴講するのは管楽器が多かったのですが、楽器が違ってもフレーズの作り方とか音楽の本質は変わらないことを確認することができました。一流のプレイヤーがいらして、その方の考えていることに触れられるというのは私たちにとって刺激的なことで音大ならではの講座です。楽器が違うから関心がない、というのはもったいないです。管楽器であれば喉の使い方は基本的に歌うことと同じだと考えているので、もし声楽のマスタークラスを見ていたら新しい発見があったのではないかと少し悔やみます。東京音大にはチャンスがたくさん転がっていて、興味さえあれば上達のヒントはたくさんあるはずです。貪欲に捜し、拾い続けたほうが音大生として楽しい学生生活を送れるのではないかと思います。
 
 

― 将来はどんな演奏家を目指しますか
 
 できたら「演奏家」ではなく、本当の『音楽家』になりたいと思っています。もちろん私はテューバ奏者ですし、テューバを吹くことは大好きです。ですが極論、テューバでなくてもいいのです。そもそも最初はユーフォニアムからはじまって、体が大きいから偶然この楽器になっただけなのです。大切なのはその楽器で何を成して何を果たすかだと感じています。これまで築かれてきた歴史を紡ぎつつ、新しい時代を切り開いていかなければならない。永遠と続く音楽史の中で「今まで」と「これから」を繋ぐ歯車のひとつとして機能できたらそれが一番幸せなことではないでしょうか。たまたま出会ったテューバという楽器を通して、レパートリーを増やし、楽器の可能性を追求しつつも、さらにもっと深い歴史の一員として『音楽』に携わっていきたいですね。
 
 

― コンクールのこと、大学時代のこと、将来のこと、いろいろ興味深い話を伺うことができました。これからますますのご活躍を期待します
 
 

(広報課)