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【卒業生インタビューシリーズ第2回】坂本夏樹さん

坂本夏樹さん

音楽ワークショップ・アーティスト/東京音楽大学助手

(2013年ピアノ演奏家コース卒業 2015年大学院修了 秋田北高等学校卒業)

 

地元で一番おもしろいピアノの先生になりたくて大学に入学した坂本夏樹さんは、卒業後、音楽ワークショップの企画・実施を精力的にこなし、音楽の新しい可能性を自ら切り拓く道へ。在学中に受講した2つの講座が進路に大きな影響を与えたという。

 

―坂本さんの今の仕事を教えてください。

 

音楽ワークショップ・アーティスト「おとみっく」を結成し、音楽ワークショップの企画制作・実施をしています。今年で8年目になります。生後6カ月からの親子向けイベントだったり、施設や特別支援学校で開催するものだったり、さまざまな対象や場所に合わせた内容を企画しています。社会包摂、文化事業の側面が強いため、主に公共団体から依頼をいただいています。
小さい子ども向けでは、音楽に合わせて手をたたいたり体を動かしたり、音楽を聴くだけでなく体験しながら音楽の楽しさを味わいます。小学生向けのクラシック音楽をテーマにしたイベントでは、いっぱい楽器を用意して、まず楽器を楽しんでもらってから楽曲のメロディーやリズムを用いた音楽作品づくりなども行っています。
大人向けでは音楽をコミュニケーションツールとして企業研修などでも実施しています。音楽の知識や技術のあるなしに関わらずそれぞれの感覚で楽しむことを大事にしています。
「おとみっく」の所属アーティストのほとんどが東京音楽大学の卒業生です。「ミュージック・コミュニケーション講座」で出会った人たちで結成して、そこからどんどん輪が広がっていきました。
 


※ 音楽ワークショップ・アーティストおとみっく https://www.otomic-artist.com/
 

―「ミュージック・コミュニケーション講座」の受講がきっかけとなったんですね、どのような授業ですか?

 

神戸女学院大学との連携授業で、音楽を聴いていただくコンサートとは違った、参加者と一緒に音楽作品をつくるなど、音楽を共有する音楽ワークショップの方法を学びます。音大生が社会に発信できるのは「作品」や「演奏」という形だけではないこと知りました。音楽がもっている楽しさや人と人とを結びつける根源的な力に目を向けて、多様なニーズに応える音楽プログラムを企画・実践していくことのできる人材の養成を目指す講座です。
 
※ ミュージック・コミュニケーション講座 http://www.music-communication.com/index.html

 

―もともと、そのようなことに興味があったのですか?

 

いいえ。私はピアノ専攻で、秋田に時々いらっしゃる武田真理先生のレッスンを受けて、東京音楽大学への進学を決心。卒業後は地元秋田に帰ってピアノの先生になるとばかり思っていました。秋田で一番おもしろいピアノの先生になるという目標のために、レッスン以外に音楽教育やアートマネジメントについても積極的に学んでいました。そんな中、大学3年の時に出会ったのが、「ミュージック・コミュニケーション講座」です。“音でコミュニケーションを取る”というのをはじめて体験して、のめり込みました。講座を担当する武石みどり先生との出会いがとても大きかったのです。
 

―卒業後すぐに今の仕事に就いたのですか?

 

音楽ワークショップは、当時日本ではまだめずらしく、東京の小学校や幼稚園からのご依頼が少しずつ増えて手応えを感じていましたが、仕事にするにはまだ準備不足という状況でした。進路をすごく悩みましたが、どうしてもこの活動を続けたくて、大学院に進んで伴奏の勉強を続けながら音楽ワークショップの活動範囲を広げていこうと決心しました。
ワークショップに関する講座も学生向け料金で安く受講できたので、そういう勉強会をとにかくたくさん受講しました。そこからも仕事につながって、東京文化会館主催の講座ではポルトガルのカーザ・ダ・ムジカという音楽施設の教育プログラムを学び、現在、東京文化会館のワークショップ・リーダーとしても活動しています。
 
※ 東京文化会館ミュージック・ワークショップhttps://www.t-bunka.jp/host-stage/workshop.html

 


▲神奈川県立音楽堂でのイベント
 


▲幼稚園での参加型コンサート
 
 
―音楽ワークショップのどんなところにやりがいを感じていますか?
 

参加してくださった皆さんからいただくご感想が一番のやりがいにつながっています。「新しい一面に気づけた」、「成長していたことを感じた」など、親御さんや先生方が音楽ワークショップを通じて、普段知っている子供たちのポジティブな変化に気づいてもらえた時はうれしく思います。

 

 

―この先の展望について教えてください。

 

音楽ワークショップを実施できる「場」と「アーティスト」を増やすことです。さまざまな環境やコミュニティで音楽を生かす可能性を提案して、「音楽ワークショップ・アーティスト」という職業が日常に浸透していけたらうれしいなと夢を描いています。その目標のために、最近は音楽ホールだけでなく、企業とご一緒させていただいたり、アーティスト向けのセミナーにも力を入れています。

 


▲2019年ピティナ・ピアノコンペティション 
* ミュージック・コミュニケーション講座の助手も務めています

 

―ところで、坂本さんはACTプロジェクトの助手も務めていますね。

 

はい。ACTプロジェクトの助手は今年で3年目です。

 

―ACTプロジェクトについて教えてください。

 

ACTプロジェクトは、学内外で行われるコンサートの企画・制作・広報を実践する、いわば「学生による音楽事務所」のようなものです。アートマネジメントの仕事を専攻・学年を越えて組織されたチームで実体験します。複数の教職員が指導・サポートをして、企画力、コミュニケーション能力、リーダーシップ、デザインやプレゼンテーションスキルなど、さまざまなスキルを身につけることができる内容となっています。私も在学時に受講し2年生から4年生まで続けました。

 
※ ACTプロジェクトの詳細
http://www.act-tokyo-ondai.jp/concept/index.html

 

―坂本さん自身もACTプロジェクトでの学びが社会人として役に立っていますか?

 

はい、私の青春はACTだった!と言えます。ACTプロジェクトを卒業した仲間も皆思っていることだと思います。自分たちで何かを作り上げていくのでトラブルがいっぱいあるんですよ。揉めることもある。意見がぶつかっても協力していい公演を作っていこうというのが皆の中に共通している。だから、一緒に乗り越えた分だけ、つながりが濃いんです。今も、大事なことはACTで知り合った友だちに相談するし、仕事を紹介し合ったり、プロジェクトを立ち上げたり、卒業後も皆で助け合っています。

 

―ぜひおすすめしたい講座ですね。

 

音楽大学に入って、楽譜と向き合って優秀な成績を収めることも大事ですが、社会経験を積んで、演奏会を実施するに至るまでに何が必要か、裏方の立場を知ることで、アートマネジメントもできる演奏家になれます。メールの出し方から、挨拶の仕方、名刺の作り方、フライヤーの作り方…教職員のアドヴァイザーが各チームに配置されて、本当に全部やりますからね。それに、在学中に社会の人とやりとりをすることが何よりの勉強で、社会に出た時に周りより一歩先をいけるといいますか、自信がもてます。
ACTプロジェクトのメンバーは卒業後、ミューザ川崎シンフォニーホールなど音楽ホールでマネジメントに携わっている人や、教員になった人、一般就職した人、演奏活動をしている人などさまざまですが、皆やりがいや目標をもって仕事に取り組んでいると思います。

 

―ACTプロジェクトとミュージック・コミュニケーション講座は企画力を身につけるというところが共通しているのですね。両方受講する学生も多いんですか?

 

周りでは両方受講したのは私だけでした。音楽ワークショップは決まった型がなく、お客さまのことを考えてゼロから企画していくので、ACTプロジェクトで得た企画力や運営ノウハウなどがたくさん生かされていると感じています。
また、今、ACTプロジェクトの助手としては、外部で活動しているワークショップを企画・運営する立場から学生にアドヴァイスをしたり、フライヤーの作り方なども教えています。

 

―両方受講すると“化学反応”のようなことが起きるのでしょうか。

 

そうかもしれませんね(笑)

 

―最後に後輩たちにアドヴァイスをいただけますか。

 

音楽は知識や技術がある人たちだけが理解できる難しい、高尚なものではなくて、いろんな人の身近にあって、時には年齢や言語などの垣根を越えて共有できるということを伝えるべく活動しています。学生の皆さんには、明日のレッスンのことを考えるのも大事ですが、自分はどういう音楽家になりたいのか将来のことをよく考えて、未来を見据えた学生生活を送ってほしいと思います。可能性を広げて、いろんなことを経験し、自分の目指す像や目的が言える音楽家を目指してほしいです。

 

―演奏だけではなく、自ら演奏会の企画・運営ができ、音楽の新しい可能性を切り拓いていけるような人材が、今求められています。東京音楽大学では、専攻実技の学修はもちろんのこと、社会に出た後に役立つさまざまなスキルを在学中に身につけてもらえるよう、多彩なプログラムを用意しています。皆さんも興味あるものにどんどんチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

 

 

【坂本夏樹さんのプロフィール】
秋田県出身。東京音楽大学を経て同大学大学院鍵盤楽器研究領域修了。ロンドンのギルドホール音楽演劇学校の講師や、BBC交響楽団、ポルトガルのカーザ・ダ・ムジカによるトレーニングを受講し音楽ワークショップの手法を学ぶ。大学院修了後は、「おとみっく」としてこれまで151公演、乳幼児から大人まで、延べ1万人以上を対象にワークショップを実施している。また東京文化会館ワークショップ・リーダー、NPO 法人みんなのことば所属アーティスト・プロジェクトマネージャーとしても活動中。近年では後進の育成にも力を入れており、東京音楽大学助手、和洋女子大学非常勤講師を務めている。

 

(広報課)
 
※インタビューは2020年2月に行いました。