― 1位受賞おめでとうございます。まずは、コンクールについてお話を聞かせてください。日本音楽コンクールに挑んだのははじめてですか?
今回は2度目の挑戦でした。1回目は2018年、学部3年生の時にはじめてオーケストラの作曲にチャレンジして、なぜか未完のまま出品し、当然のように落選しました。続く2020年にも挑戦を試みたんですが、作曲途中で、一度すべてを破棄して書き直したことで時間切れとなってしまい、出品すらできませんでした。なので、厳密に言えば今回は3度目の挑戦でした。
― 3度目の挑戦となった今回の作品にはどのような思いが込められていますか?
作品タイトル『土の器』に新約聖書の言葉を引用し、非常にパーソナルな内容です。着地点として、「希望を語る音楽」となるように意識して書きました。ドイツに留学することが決まり、1年間休学したもののパンデミックの影響で留学が1年延期となりました。図らずもコンクールに挑戦する時間が得られたことで、逆境をプラスに生かす工夫はできたのかなと思います。とはいえ、精神的には大変苦しい期間でした。作曲を辞めようかと幾度なく真剣に考えていました。
― 希望を捨てなかったのですね。ご自身で今回の受賞はどんなところが評価されたと思いますか?
現時点でまだ実際に音になっていないのでなんとも言えません…。楽譜を書くということに関していえば、作曲の本質から逸れて譜面上の見栄えに意識が傾いている楽譜は、読んでいて直感的に気づくので、今回のコンクールへの挑戦はそういった虚栄心との戦いから多くを学んだと思います。
― 指導教員からはなんと?
「おめでとう!」、「すばらしい!」とメールでお褒めの言葉をいただきました。実は、作品のことや、今回日本音楽コンクールに挑戦したことを先生方には特に事前にお知らせしていませんでした。突然の結果報告に驚かれたことと思います。
― そうでしたか。これからの目標を教えてください。
今回の結果を励みに、自分の作品を演奏してもらう機会を得るために、今後も積極的に挑戦し続けることが目標です。
前回インタビュー(2020年7月掲載)していただいた際にもお話しした、「重要なのは思想と態度」という原田敬子先生の言葉を想う時に、見習うべき作曲家としてまず頭に浮かぶのは、J.S.バッハです。今作に続いてこれからも聖書的価値観に立脚した音楽をたくさん書いていけたらいいなと思っています。
― 楽しみです。ところで、福丸さんが高校時代からこれまでに一番成長を感じる部分はどこですか?
高校生の頃に漠然と抱いた、「作曲家として身を建てる!」とか「この音楽分野で著名になる!」みたいな野心を一刻も早く、そして完全に放棄したいと思うようになったことです。
もちろん実現すればすばらしいことですが、それは結果の話であって、目的ではありません。日本人である自分が西洋音楽の文脈に参加し作曲することに、使命感ともいえる動機と覚悟をもって取り組めるかをいつも考えるべきだ、と今は自分に言い聞かせています。
― 今一番言いたいことは?
内村鑑三のある著作の冒頭に、イギリスの歴史家トマス・カーライルの格言が引用されています。
「推奨:誠実、心の真のありのまま、これ常にいかに貴いかな。実際に自己の心の中に存することを語る者は、その方法のいかに拙劣なるも、必ず彼に聴かんと欲する人あるべし」
作曲中はこの言葉に大いに励まされました。今後はこれまで以上の熱心をもって、勉強を続けていきたいと思っています。温かい目で見守っていただけるとうれしいです。
― 最後に、東京音大を目指しているみなさんにメッセージをお願いします。
僕は学部1年生の時に、ベートーヴェンの第九合唱の一員としてプロオケと共演する機会がありました。また2〜3年生にかけて、奨学金を受けてドイツでの短期留学プロジェクトにも参加させていただきました。ほかにもたくさんありますが、東京音大には挑戦する学生を応援してくれるさまざまなカリキュラムやプロジェクトが用意されていますので、入学したらぜひ積極的に活用してほしいと思います。
―心にじーんと来る貴重な話をありがとうございました。応援しています。
(広報課)