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【コンクール受賞者インタビューシリーズ】第18回 樋渡希美さん(後編)

樋渡 希美さん

(2017年打楽器卒業 大学院科目等履修生を半年間行ったのち、2017年10月からシュトゥットガルト音楽演劇大学院に入学、現在は国家資格演奏家課程に在学中  星野高等学校卒業)

2021年南カリフォルニアマリンバ国際コンクールCollegiate Solo部門第1位

2020年トロンプ国際打楽器コンクールにて第2位およびヴィレム・フォス賞を受賞

2019年ミュンヘン国際音楽コンクールセミファイナリスト ほか多数

 

~カメラもマイクも英語も…今求められているのはなんでもできる奏者~

 
(後編)
― ところで、トロンプ国際コンクールを受けようと思ったきっかけはなんだったんですか?

 

前にもお話したように、トロンプ国際コンクールとミュンヘン国際コンクールは、打楽器の有名なコンクールであるということに加えて、東京音楽大学ではほぼ毎年(*コロナ以前)、トロンプ国際コンクールで賞を取った方たちや審査員の方々が3、4日間マスタークラ スをする機会が設けられているんです。そのマスタークラスでコンクールの創設者や受賞者からさまざまなお話を聞くことができたので、身近にある存在として、いつか自分もこのコンクールを受けるんだと目標にしていましたね。

 

― トロンプ国際コンクールに向けて、指導教員からどんなアドヴァイスを受けましたか?

 

ドイツの先生から常日頃言われているのは、準備の仕方です。国際コンクールは、課題の量がすごく多く、加えてコンクール開催の1か月前位にも新曲が送られてくるので、皆さん準備し切れずにバタバタしてしまうそうです。なので、準備の仕方を学ぶようにとすごく言われました。
私が大学に在籍していた頃は、実技試験が半年1回あり、そのために向けて1曲を集中的に練習することが多い気がしました。しかしヨーロッパに来てからは、5~10曲の大曲を同時に準備しなければいけないことが多くなりました。最初は同時期に何曲も練習しなければならないなんて自分のキャパシティを越えていると思い、途方に暮れていましたが、楽譜のさらい方・読み方や準備の仕方を何度も教えていただき、練習しました。同じ曲を何時間も練習するのではなく、長くても1曲1から2時間。それから次の曲。その日の成長が感じられなくてもいい、とにかく1日でいろんな曲をこなして、それを毎日続けること。人間の脳の構造上、同じことをやっていてもすぐに忘れてしまうので、いろんな曲に毎日触れる方が効果的。1か月経つと全体の曲がレベルアップできるという考え方です。結果的に、この練習方法に徹したのが一番効果が大きかったかなと思います。

 

 
― 本番を迎えるまでにどんなことをしましたか?

 

イメージトレーニングを重ねました。現地に行く前から、自分は現地でどんな行動をするんだろう、と常に明確にイメージしておくようにしました。1日のタイムスケジュールを細かく事前に考えて。細かくイメージすることによって、パニックが起きなくなるんです。「いつもと本番当日はなにが違うんだろう」というのを事前に知っておき、本番の数分前までのスケジュールを細かく明確に定めます。私の場合は、それをするととても安心します。
 
― 結果は2位。満足のいく結果でしたか?

 

悔しい!のひと言に尽きます。「1位を取る、取れる」と宣言していたので(笑)。普段から、目標を口であらかじめ周囲に伝えるようにしているんです。「それは無理でしょ!」と言われることも多いのですが、なんとなく目標を口に出していると、それに向けて行動を起こしていける気がするんです。なので、自分を奮い立たせるためにも、「(1位を)取る。取れる。絶対取る」とずっと言っていました。
ファイナルまでいい感じに通過できたので、1位を取れるという自信もあったのですが、ファイナルの曲を(新型コロナの関係で学校ではあまり練習できなかったため)家でできる種類の楽器でやっていたので、あまり華やかな曲にならずに選曲が原因だったと審査員の方から聞きました。でも、ひとりで取れた2位ではなく、大学の方々の協力があってこその結果なので、感謝の気持ちでいっぱいです。
受賞したことで、ヤマハやドイツの楽器メーカーから声がかかり、所属アーティストとして、これから動く大きなプロジェクトにも参加させていただけることになりました。コンクールをとおして自分を知っていただいたことで、音楽家としての第一歩を踏み出すことができたかなと思います。
 
― ところで、樋渡さんが海外を目指すようになったきっかけはなんですか?

 

ずっとドイツ語圏に行きたいと思っていました。クラシックの原点であるということと、大学2年生の時に見たミュンヘン国際コンクールが頭から離れられなかったんです。自分もその舞台に立ちたい、そこの空気を知りたい、出場する参加者を見て勉強したい、そういう気持ちがすごく大きかったんです。大学4年生の時に短期留学でザルツブルクに行って、絶対留学しようと決心しました。と言っても、ドイツ語が全然話せなかったので、落ちるかなと思ったのですが、キャラクターと演奏で魅せるしかないと思い、「どうしてもここに入りたい!」という気持ちで臨み、“ガッツ”で入ることができました。
 
― “ガッツ”ですね!ご両親は心配されませんでしたか?
 
もう心配で心配で。「本当に行くの!?」って。
「行く。やってくる。帰るつもりはありません」と言って出てきました。資金をどうするのかという問題もありました。ヤマハ奨学金制度を受けて奨学生になれたので、晴れて留学することができました。
 

 
― 今後の目標は?
 
これからは、1位を取ることよりも、音楽家として生活していくために、いろんな活動をいろんな観点から進めていきたいと考えています。ヤマハのプロジェクトや、今いただいているアメリカやコロンビアでのマスタークラスを成功させて、世界を飛び回る音楽家になれるようにしたいと思っています。今度は教える側として、音楽家として、舞台に立ち続けたいですね。
 
― 世界を飛び回る音楽家。楽しみですね!ところで、世界で活躍する音楽家として今どんなことが求められていますか?

 
チケットを買わなければ見られなかったようなコンクールでさえも、今はオンライン化されることにより、参加者の演奏を全世界の人がパソコンひとつで見られるようになりました。SNSで気軽に共有してコメントすることもできる。生の音は聴けないけれど、いろんな人と国を越えて質問し合える時代なので、世界の人々がどんな音楽をしているのか、音楽のタイプを知ることは重要です。音楽の仕方、表現の仕方がどんどん変わってきていると感じます。
奏者は、これまで演奏だけに集中していればよかったのですが、今はカメラやマイクなども準備して、自分で機材を扱えなければいけないことも多く、そこが大きな課題にもなっています。特に打楽器は、すぐに新曲が出てしまうので、それに対応するにはパソコンを扱える能力も必要。
それから、語学。コンクールで賞を取った後、関係者の輪の中に入れるかどうか。「この国でマスタークラスをやってくれませんか?」と声をかけられた時に、英語ができないと話が先に進まなくなってしまう。今後のお仕事につがなるか、賞を取って1回切りで終わってしまうか。やはり、共通言語の英語は絶対にできないといけない。
駆け出しの頃は特に、自分でなんでもやらなければならないので、「使いづらい」と思われないようにすることがとても大事かなと思います。
 
― 東京音大の後輩たちにメッセージをお願いします。

 
東京音大の先生方は本当にすばらしいんです。国際的に活躍するソリストの先生や国内外のオーケストラで大ベテランの先生もいらっしゃるので、オーケストラの勉強も、ブラスの勉強も、ソロの勉強も、どんなことでも聞きたいことに対してプロフェッショナルに答えてくださります。すべてがそろっている、なにに対しても困らないという本当にすばらしい環境です。「卒業生にすごい先輩方がいらっしゃるから東京音大に入りました!」という声をたくさん聞きます。私の後輩の子たちもたくさん賞を取っていて、学生のレベルも高いなと思います。
そんな環境のなかで、もし、今やりたいことがあったら、いろいろな問題があっても、前に進んでください。
後輩の中でも、受験したい子や、国際コンクールを受けたい子はたくさんいるのですが、金銭的な問題や、準備期間は設けたものの、最後にはあきらめてしまうことが多くて、とてももったいないと思います。やる気と目標をもっている時のエネルギーは、心配する「負のエネルギー」を打ち負かすほどのパワーがあると思います。ほかにも語学の問題、親の説得などいろんな問題が立ちはだかりますが、不安がらず、できることを絶対にやってほしいと思います!
 

 
― お忙しいなか、元気が出る貴重なお話をありがとうございました。

 
(広報課)