国内外のコンクールにおいて本学学生・卒業生の受賞が続いています。ピアノ主任教授の石井克典先生に特別ロングインタビューを実施いたしました。
コンクールの現況、演奏において大事なこと、および本学ピアノでの学びの特徴についてお話を伺いました。3回に分けて掲載いたします。
(第2回)
― 本学学生・卒業生のコンクール受賞が続いていますが、安並貴史さん、片田愛理さん、佐川和冴さん、藤平実来さん、嘉屋翔太さん、皆さんに共通する特徴はなんですか?
人一倍の情熱、好奇心、集中力、根気強さが皆さんに共通する特徴
皆さん音楽に対する情熱が人一倍強いこと、好奇心旺盛であることだと思います。
みんな友だちが多いと聞いています。家に籠もって練習する時もあるとは思いますが、学校によく来ているし、個々の活躍はもちろんありますが、友だちに応援されたり、自分が友だちを応援することで個々がさらに実力を磨いて大きく育っているということだと思います。ひとりで勉強しているのではなく、周りからもいい刺激をもらえるのは、本学で学ぶいい点であり大きな特徴だと思っています。
片田さんは付属高校から大学院途中の留学まで、嘉屋くんは学部1年から2年最後まで、安並くんは学部1年から現在、佐川くんは中学2年の頃から現在、指導していますが、たとえば演奏する楽曲ひとつとっても、彼らは早い段階から自分で演奏曲を選曲、プログラミングができるようになりました。
彼らは人一倍の努力と底なしの情熱をもっており、もっともすごいと思うのは、その気持ちの継続力です。粘り強さが秀でているのだと思っています。ある著名なピアニストが言っていましたが、
「ピアノという楽器の特性はほかの楽器と違って、才能も必要だがある程度の努力がないと続かない。時には努力が才能を凌駕することもある楽器なのでおもしろい。」と。
彼らは演奏に情熱を傾けてがんばって、今回よい結果が出てよかったと思います。でもこれも長い人生のひとつの通過点です。それぞれさらに勉強と経験を積み、常に自身をアップデートしながら自身の道を切り拓いていかねばなりません。これからも継続してがんばってほしいと期待しています。
― 東京音大ピアノの学びの特徴はなんですか?
楽譜を読んで、自分で判断できる能力の育成が最大の目標
今回コンクールに入賞した彼らが特別というわけではなく、私はクラスすべての学生にまずはこちらからの指示ではなく、興味のあることを聞くようにしています。仮にたとえば曲目を決める場合でも、個々に違う興味の傾向に沿って、個々に違う新たに必要なこと、取り入れられる曲目を話し合っています。
演奏とは、彼らがその時になにに興味を抱いているかがもっとも重要なことだと考えています。自分の現在の興味は、なにかを考えて人に伝えることはとても大切な自己判断でもあります。
また、演奏とは最後の最後は一人の孤独な作業であり、その場で助けてあげることはできません。その場での自分の判断と決断、その場でリアクションできるようなたくさんの知識と経験を積めるよう心がけています。
もうひとつの判断の力として、
クラスすべての学生に対して目指していることは、大学4年間の勉強をとおして、指示を受けたりせず教わらなくても、音源を聴かなくても自分で楽譜を見て、その曲の時代やバックグラウンドを想像して曲がどういうものか判断ができる力とセンスを身につけることです。たとえば新しく弾く曲や、教える立場になって助言を求められた時に、自分で判断したことがある程度“大きくズレていない”状態になることです。
もちろんこれはたくさんの経験を積むことが必要ですが、わからない時になにを参考に読むべきなのか、なにを調べるべきなのか、すなわちそれをどのように自身で勉強すべきかを学生時代に経験して知っていると、卒業後の長い人生で自身での勉強が続けられることにつながると思っています。
学生時代に勉強の仕方の実験をたくさんして、恥をかいたり失敗をたくさんした人ほど、卒業後の成功があると思っています。
ネットやYouTubeで得られる内容は皆が知っていることであることを自覚して、本学のとても充実した音楽図書館を利用して勉強しておくことは、むしろ昔より貴重な機会になっていると思います。
― 第3回では、本学のピアノの学びについてさらに掘り下げてお話を伺います。続く。