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【在学生インタビューシリーズ】第19回 水島正樹さん

水島正樹さん

(大学院修士課程声楽専攻オペラ研究領域2年 東京藝術大学卒業)

  

在学生のみで編成された学内第九演奏会でバリトンソロを歌い、豊かな声量と風貌に注目が集まった水島さん。東京藝術大学を卒業後、仕事をしながら二期会オペラ研修所で学び、ドイツへ留学。現在、本学大学院修士課程2年に在籍しています。10年後の自分を思い描いて「後輩たちに視野を広くもつためにいろんな経験をしてほしい」と投げかける。

 
- 学内第九演奏会を振り返ってみてどんな演奏会でしたか?
 

「第九」は自分にとって、これを歌って年越しできるという年末の恒例行事のようなもの。これまでに日本フィルハーモニー交響楽団や東京フィルハーモニー交響楽団など主要なオーケストラの合唱エキストラとして30回くらい歌い、地域の合唱団での言語指導も行ってきましたが、学生オーケストとの共演と、ソリストとして歌ったのは今回がはじめてです。

広上淳一先生からいろいろなアドヴァイスをいただきました。楽しく曲の解釈を共有しながら厳しいご指導。先生の感性に触れていくうちに、ベストを尽くして少しでも先生の表現したい「第九」に近づけたいと思いました。そして、とても情熱的な演奏会になる、と予感もしていました。

豊かなハーモニーを奏でるプロとは違い、学生オーケストラと合唱団は、先生に言われたことに瞬時に反応するレスポンスの速さ、メロディや表現に勢いがあってとてもアグレッシブな演奏だったと思います。本番では、みんなが一体となって楽しむことができました。
 

 
▲ 学内第九演奏会にて(右端)
 

- 広上先生の指揮で歌うのははじめてですか?
 

はい、今回がはじめてでした。先生の一言一言が言われる人を奮い立たせる不思議なパワーをもっていて、2倍にも3倍にもできるようになるという…なんでしょうね。「自分がこんなにできるんだ」という発見をさせてくれるすごい指揮者だと思います。
 

- 熱気あふれるすばらしい演奏会でしたね演奏会レポートはこちら。さて、話が変わります。水島さんは、東京藝大を卒業してドイツに留学し、今は東京音楽大学大学院修士課程に在籍。これまでの経緯をお聞かせください。
 

自分は生まれも育ちも東京・上野で、通っていた中学校の隣に東京藝大がありました。大学はなるべく移動が少ない近場の学校に入りたいなと思って。となると、東大か東京藝大。高校2年の冬に、東京藝大を受験しようと決意しました。と言っても、吹奏楽部でサクソフォーンを吹いた経験はあったものの、音楽はまともに習ったことがありませんでした。高校3年の1年間でピアノ、楽典、ソルフェージュのレッスンを詰めに詰め、ほぼ毎日のようにレッスンに通っていました。先生からは、「三浪するつもりで」と言われて期待していなかったのですが、結果は合格。“勢い“でいけたのかなと思います。

 

- どうして「歌」を選んだのですか?
 

家族に音楽に詳しいものはいなく、自分自身も音痴の部類に入ると自覚していました。唯一、父親はカラオケがとても上手なので、ひょっとしたら自分もその遺伝を継いで、「歌」ならちゃんと訓練すればできるようになるかもしれない、というのが望みでした。
 

- なるほど。その後は?

 

大学3年で東京藝大の大学院に進むべきかどうしようかを悩み、最終的に就職することにしました。音楽の世界だけではなく、音楽を続けながらも社会人として人間性を磨いていきたいな、と。仕事をしながら、二期会オペラ研修所に所属し、先輩たちに囲まれて歌の世界、プロの世界の厳しさを教えていただきました。二期会のマスタークラスを修了したのち、ドイツに留学しようと決意し、1年間お金を貯めながら準備をしました。高い声が出ない自分の声にコンプレックスを感じていたんですよね。
 

 

- なるほど。ドイツ語は得意なんですか?
 

いいえ、全然話せませんでした。旅行者向けのガイドブックを片手に語学学校と物件探し。サバイバルですよね(笑)。それでも友だちができて、ちょっとずつ生活できるように。2年間の留学を経て、声の成長を感じていたのですが、でもまだ納得できないものを抱えていました。ちょうどその頃、二期会から、「キャストをやってくれないか」と声をかけられたので、帰国して舞台に乗っていこうということになりました。
 

- それでどうして東京音大の大学院に入ったのでしょう?
 

たまたま出演していたオペラに小森輝彦先生も出演されていたんです。その歌声を聴いて、「あ、自分もこういう風に歌ってみたい!」と思ったんですね。ならば、小森先生にちゃんと習おうと、東京音大の大学院に入学しました。
今31歳ですが、現役で歌い続けることも夢のひとつなのですが、将来は教える立場として、自分自身が抱えていたような声のコンプレックスをもっている生徒に素直な声のすばらしさ、それだけでどれほど人を感動させることができるのかを教えていきたくて、そのためにも大学院で学んだ方がいいと思いました。

 

- 教えることにも興味があるのですね。東京音大の大学院はどうですか?
 

東京音大は、複数の先生から教えていただけるので、とてもいいと思います。自分の指導教員のみならず、いろんな先生のアドヴァイスを聴くことで視野が広がります。大学院に入ってから、ほかの先生や学生の声を聞いて、人の意見を消化しながら成長できるようになったと感じます。がむしゃらに声を出そうとがんばっていた昔と違い、今は体のコンディションに素直に従い、今あるものを聴いていただけるようになったと感じます。

 
- 社会人を経験して大学院へ。よかった点はなんですか?
 

一番変わったと思うのは、人の話を聞けるようになったことです。私が私が、という我の強さを抑えられ、人の話に寄り添いながら、よりよいものをつくっていくことの重要さを知りました。音楽を学んでいる皆さんもぜひ、目の前のことだけではなく、10年後の自分を思い描いて、視野を広くもつためにもいろんな経験をしておくことをお勧めします。

 
- 最後に後輩たちにメッセージをお願いします。
 
自分の演奏にうそをつかないこと。先生方は、それぞれご自身の強みや専門性をおもちなので、先生方の成果や技術を見つけて、頼りすぎずに、“自分”をつくっていくことが大事だと思います。
あと、どこで学ぶかが重要なのではなく、なにを学ぶかが重要だと思います。東京音大は施設もきれいで、指導も手厚くてフレンドリー。そこで自分にとってなにが必要で、なにを学ぶのか。学校名ではなく、カリキュラムや先生を見て、どう成長していきたいかをしっかりと思い描いて学校選びをしてほしいと思います。
 
― ほかにも伝えたいことがあればお願いします。
 
音楽は、音を楽しむと書く。人と競おうとすると苦しくなってしまう。周りを気にせずに、単純に、かつまじめに、自分の音を楽しんでください。「好きこそものの上手なれ」。好きなことを持続していった先に結果がついてくると思います。
 
― 音楽以外の仕事をこなしながら、立て続けにオペラにも出演する多忙な日々の水島さん。どことなく大人の余裕と貫禄を漂わせていました。音楽を学ぶ意義を考えるきっかけとなりそうです。
 

 
(広報課)