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【コンクール受賞者インタビューシリーズ】第20回 嘉屋翔太さん

嘉屋 翔太さん

(ピアノ演奏家コースエクセレンス3年 開成高等学校卒業)

第10回フランツ・リスト国際ピアノコンクール最高位(1位なし2位)、併せて聴衆賞とサン=サーンス最優秀演奏賞も受賞

 

~常に自分をバージョンアップさせていく必要がある~

 
― リスト国際ピアノコンクールはどんなコンクールでしたか?

 

リストの作品を中心に扱っていますが、今回はサン=サーンスの没後100年にあたるアニバーサリーイヤーということもあり、特別にサン=サーンスのエチュードとオリジナル作品が課題に組み込まれていました。予備審査を含め5段階の審査があって、1次予選はバッハの平均律のほかに、シューベルトの歌曲をリストが編曲したものと、シューベルト以外の作曲家の歌曲をリストが編曲したものをひとつずつ。それとリストのエチュードに、サン=サーンスのエチュードという内容。2次予選はサン=サーンスのオリジナルの作品を含む60分以内のプログラム。セミファイナルは、リストソナタを約30分間で、ファイナルはコンチェルトをふたつ用意して、セミファイナルの直後に、審査員がどちらの曲を弾くか指定してきます。僕は「ピアノ協奏曲第2番」と「死の舞踏」を用意していて、「死の舞踏」を弾きました。プログラムが重くてなかなか大変な勝負のコンクールだったと感じます。

 

― いつからコンクールを受けようと思いましたか?

 

予備審査に向けて6月の一ヶ月間と、本審査に向けて8月はじめから全力で準備したという感じです。サン=サーンスは、作品もよく知らなくて目新しいものがたくさんあったので、一生懸命準備しました。歌曲も大変でした。シューベルトのアヴェ・マリアを自分で選んだのですが、けっこう難しい。大抵の曲は1週間ほどで譜読みできるのですが、アヴェ・マリアは形になるまで2週間くらいかかりました。

 
― 先生からはどんなアドヴァイスを受けましたか?

 

音を形で読む作業と音をつくる作業は別物で、「君は音をつくる作業をちゃんとやらないといけない」と野島稔先生によく言われています。僕の場合、形で読めるようになると音楽的ではなくて構造学的な弾き方になってしまうようです。建築物をただただ建てる作業になってしまわないように、一音一音響かせることを特に意識するようにしています。

 

― もう少し詳しく説明していただけますか?

 

指使いは、頭を使えばどんなポジションでも無理やり弾こうとして弾けないことはないんです。その上でどういう手の形で弾くのかというのが次の段階として必要になるので、いろいろ教えていただいています。ピアノの学習というものは、指使いや音階など基本的な動かし方といったベースとなる技術を教えてもらい、その段階が終わると、音楽を大きく捉える段階に入る。音楽の構造やフィーリングなど、感情を演奏に反映させ、音楽家の思いの丈にどういう風に共感していくかを理解することが必要になる。そしてさらに上に行くためには、理解したことをきちんと表現するための技術の習得にふたたび戻ってくる。リストコンペへ旅立つ1週間まで、その技術の習得に集中していましたね。

 
― 具体的にどんな練習を?

 

フィーリングや表現の前に、体で覚えなきゃいけない段階があって、そこは練習量がどうしても必要になる。一音ずつ弾いてもすごくゆっくり弾いても分解してもいい響きになるように、ゆっくり弾いても音楽になる状態をつくって、そこからだんだんスピードを上げて、あるべき姿にもっていく。たとえで言うと、細部をどれだけ拡大しても綺麗な絵になるように絵を描いていくという感じでしょうか。最初からなんとなくイメージだけで弾いていると、大雑把な絵は描けても、拡大した時に荒っぽくなる。そこをコンクールでは見ていると思います。
 

― 自分の出したい音がわからなくなって悩んでしまうことはありますか?
 
あります、あります。そういう時は、まずは寝ます(笑)。あとはオーケストラの曲を聞くとか、ピアノから一回離れて、違う楽器とアンサンブルしてみるとか。全然関係ないところからインスピレーションを受けたりします。そのなかで一番大きいと感じるのは歌ですね。実際、いつも歌いながら弾いています。
リストは、ハンガリーの文化が自分の中にあると強く思っていた作曲家ですが、根本的にドイツ人っぽい。それでいてイタリアものの編曲も多く手掛けているのでイタリアの文化にも精通している。ワールドワイドな人なんです。シューベルトのアヴェ・マリアの原曲は、純ドイツ的で、しっかりとした構造で端正に歌っているのですが、リストが編曲したものは、すごく音が増えている。リストは編曲作品に歌詞を全部書くんですよ。オリジナルをリスペクトしているので、全部ドイツ語の歌詞を書いているんですが、ドイツ語で歌うよりもイタリア語の歌詞で歌った方が弾きやすくてピアノにあうんです。イタリア語の歌詞もあるので、そちらの方にうまく乗るようにと、研究しましたね。

 
― どのように研究しているんですか?

 

大学の伴奏法の授業で、歌曲を取り扱っているので、その授業は毎回まじめに聞いています。どんなところにヒントがあるのか、先生がどんな風に歌うのか、というのは全然違う曲でも参考になることがあるので。伴奏法は3年生の必修科目で、現在進行形で必死に取り組んでいます!
 

― 大学の授業がしっかり役に立ちましたね!結果は、最高位(1位なし2位)受賞。先生方はなんと?
 
おめでとう、と純粋に祝福してくださりました。家族も喜んでくれました。ファイナルでは、日本時間で深夜にもかかわらずリアルタイムで見てくれていた子もいて、みんなメッセージをくれて。ピアノの子だけでなく、ほかの楽器の子もたくさん観てくれて、本当にうれしかったですね。
 

 
― ところで嘉屋さんにとって、コンクールを受ける意味はなんですか?

 

すごく現実的に言えば、自分の付加価値を認めてもらうために受けるというのがあります。「僕はピアノやっています。指揮も作曲もします」といくらアピールしても、証明がないとなかなか見向きされない世界なので、”箔をつける”意味で、受けざるを得ないものだと”割り切って”。プロがしっかり見ているところで、プロに評価してもらった結果は重要だと思います。
また、「自分はこう弾くけどどう思う?」という感じで、自分ができるものを評価していただく場でもあると思うんです。個性を評価する海外のコンクールはそこをすごく見せやすい。弾ける・弾けないの程度に多少の差があったとしても、自分はこういう音楽をするんだということをしっかり見せられます。審査員の話を聞くこともとても勉強になります。

 

― 今後の目標はなんですか?
 
まだまだ国際コンクールで大きいものがあるので、それに向かってもっとコンクールを受けて、さらに質の高いレパートリーを着実に増やしていきたいです。その上で、たとえばリストやプロコフィエフという“自分はこの曲が一番得意”というものを確立したいです。

 
― これからも楽しみですね!プレッシャーを感じないタイプですか?
 
プレッシャーは常にあるのが人生だと思っています。競争のない人生はつまらないですよ。生まれてこの方ずっと競争し続けてきている気がするので、まだしばらく続きそうだなというところです。でも、自分は自分、競争は競争。自分を捨てても上へ行こうとは思わないですね。常に自分をバージョンアップさせていく必要があると感じます。

 
― 戦う対象はあくまで自分ということなんですね。次回は大学生活を中心にご紹介したいと思います。どんな話が飛び出すか乞うご期待。
 

(広報課)