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【在学生インタビューシリーズ】第20回 嘉屋翔太さん

嘉屋翔太さん

(ピアノ演奏家コース エクセレンス3年 開成高等学校卒業)

  

コンクール受賞者インタビューでは、リスト国際ピアノコンクールで最高位(1位なし2位)を受賞した話を聞かせていただきました。今回は、大学生活についてお話を聞きたいと思います。

 
- まずは、嘉屋さん、音大に進学してよかったと思いますか?
 

すごくよかったと思います。こういう環境でないと難しいことはたくさんあるので…。

 

- 3年間を振り返ってみて、どうですか?
 

東京音大で3年間学んで、明らかに、作品に向かう時に注目するポイントが変わったと思います。譜読みの段階から質の高いものに完成させていくようになりました。それと、ピアノという楽器に対する愛情が格段に変わりました。一番大きいのは、ショパンが好きになったこと。1年生の終わりくらいから、ピアノをうまく響かせるいい作曲家だなと感じられるようになりました。
 

- それはなぜですか?
 

先生方に教えていただいて、弾き方が変わったからショパンも弾いてみようとなりました。こういう弾き方があるのならショパンもうまく弾けるかもしれないと思ったんです。ショパンは、「フォルテは書いてある全部の音でつくるものだ」と言っていて、メロディラインだけを引き立たせるものではないという意味だと思いますが、そういう視点から、体重、指、呼吸など体のすべてを使えるようになってはじめてうまく弾けるようになるとわかったんです。

 

- もっと詳しく教えてください。
 

古屋晋一先生の本を愛読しているのですが、(手から肩にかけて)音をコントロールする部分と、音量をコントロールする部分で、得意な場所と不得意な場所があって、手首だけで音量をコントロールしようとしても大して音は変わらない。よく「叩かずに体重をかけて」と言われますが、僕は体重があるのでいいんですが、細身な女の子にはけっこう難しいことだと思います。でも、肩から腕を使えば体重をかけられるようになる。体重が自然にかかる状態が一番楽に弾ける状態なんです。それから、歌うことも大事だと思うようになりました。
 

- 本当に声を出して歌うということですか?

 

はい、本当に歌います。これも大学に入ってから身につけたことですが、弾く曲の全部の音を歌います。最近特に意識しているのは、全部の音を歌った上で、重要性を決めていくことです。たとえば、音階が「ファミレドシラソファ」とあったとして、全部を強調して歌うと重くなってしまう。どれくらいの丁寧さと思いを込めて、ファからファまでの間の音たちを埋めていくのかを考える。

 

- どのようにしてそれを身につけたんですか?
 

プロコフィエフの9番を弾いた時に、野島稔先生に「内容がない」とぶった切られたんですよ(苦笑)。結構ショックで。その時に、「すべての音が聞こえるように。自分がどう聞かせたいのかがわかるように弾きなさい」と歌うことの大切さを教えていただきました。自分だけのイメージで聞こえるのではなく、頭の中で描いたものをほかの人に“聞こえるように弾く”ということです。もともと言われていたことですが、それからますます強く意識するようになりました。

 

- 周りの人たちは変化に気づいてくれましたか?
 

周りの子はけっこう鋭敏に気づいてくれますね。武田真理先生にも先日、「弾き方がよくなったね」と言われて、うれしかったです。なかなか褒めてもらえないので(笑)。

 

- それはうれしいですね。友だちからも、先生からも!
 

僕はもともと音楽関係のコミュニティが狭い方で、音大に入ってからコミュニティを作りはじめました。伴奏してほしい、演奏してほしいと声をかけられればなるべく受け入れるようにしています。ピアノは基本ひとりでやるものなので、横のコミュニティがなくなっていかないようにコミュニケーションを大切にしたいと思っています。

 
- 実践していることなどありますか?
 

興味をもってくれる子たちと「有志試演会」なるものをやっています。伴奏法などの授業でおもしろい伴奏をした子、興味を感じる個性の子に自分から声をかけています。
 
- 具体的に「有志試演会」はどんなことをするのですか?
 
なんでもいい、どんな出来でもいいから、今できる音楽をみんなでやってみよう、という感じでやっています。教室を借りて弾き合って、コメントし合って。1年生から3年生までで一番多い時は8名くらい。ひとりMAX30分弾いていいことにして、和やかな雰囲気でやっています。試験前の本番慣れに使ったりもします。人前で弾くのと弾かないのとでは全然違うので。これは音大に入ったらやってみたいと思うことのひとつだったんです。中高時代でも、「ピアノの会」を立ち上げたんですが、人前でピアノを弾ける環境があまりなく、その点、音大は自由にできます。音大生は、みんないろんなアイディアをもっているのでいろんな角度から触れ合えます。

 
― 音大ならではの環境ですね。
ところで普段の練習で気をつけていることはありますか?

 
僕はピアノの前に座っていても弾かない時間も結構あるんですよ。ただ、一瞬でもいい音が出たなと思ったら、どんどん乗って練習します。即興でなんでもいいから弾いてみると、「自分ってなにも考えていない時はこんなに自由に弾けるんだ~」と気づくことも多いんです。それと、気をつけているもっとも大事な点として、「こういう風に音を作りたい、だからこう弾く」というのが絶対にないといけないと思っています。どういう風に弾きたいかが決まってから、それをできるように繰り返し練習する。思考と練習の境目があるんです。そこを意識してから本当の練習がはじまります。
 

▲ 2021年度東京音楽大学ピアノ演奏会 ~ピアノ演奏家コース成績優秀者による~にて
 
― 先ほどの体の使い方もそうでしたが、すごくロジカルな捉え方ですね。
 

再現可能なものを自分の中に作りたいんです。たまたまその時にできたから、その時の感覚を思い出して、ということが苦手なんです。気温や湿度、いろんな環境がある中でも、自分がこう弾けばこの音になる、というものを作っておきたい。なので、ある程度の理論的なものがほしいんです。自分のできたこと、考えていたことなどを携帯電話にメモしたり、実況しながら録音することもします。うまくいった時の感覚を忘れたくないんです。寝て起きたら忘れちゃうこともしょっちゅうですが、家に湿度計を置いたりして、いろんな角度から自分の演奏を検証しています。
 

― 常に研究ですね!では、最後に後輩たちに応援メッセージをお願いします。

 
「考え続けること」は、人間の優れた能力のひとつだと僕は思います。クラシック音楽自体が再現芸術であり、何回でもいい音楽を再現してみせられる。「練習しろ」っていう言葉はあまり好きではないんですが、練習が必要なのは確かです。そこで、なにを練習するのか、どう練習するのか、まずはそれをしっかりと考えて、それから実行する。両方をちゃんと両立できるようにしていくのが演奏家を目指すために特に重要なことだと思います。
それから、練習以外にインスピレーションも必要です。音楽は常に人間と共にあるので、他人との交流を絶やさないこと。いろんなところにヒントがあるので、常にいろんな人と話して、笑い合って。プロコフィエフを弾いている時に、「優しすぎる」と言われたことがあります。僕は困っている人がいたら助けてあげたいタイプなので、「それもひとつのアイデンティティなんだ!」と思ったりします(笑)。人間と常に生きること。まずは隣にいる人を大切にすることだと思います。

 

― (広報課員のつぶやき)
受け答えが爽やかにして、ジェスチャーも交えながら丁寧に説明してくれる柔和な人柄!今後の活躍に注目です!

 

(広報課)