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2023.03.31

【卒業生インタビューシリーズ~TCMの先輩たちの今】第13回 竹内彬さん

竹内 彬さん
  
国立大学法人愛媛大学教育学部音楽教育講座・専任講師
 
2021年博士後期課程修了(クラリネット)
群馬県立太田高等学校卒業

  

4月から愛媛大学の専任講師に就任する竹内彬さん。フランス留学時代にもっと音楽や文化について学びたいと考え、東京音大の修士課程に入学。東京音大での学びは、音楽の見方の幅を広げてくれたと語ります。

 
 
― 愛媛大学専任講師に内定、おめでとうございます。今の心境を教えてください。
 

ありがとうございます。大学の教員になることは長年抱いてきた目標ですので、それを達成できたというのは純粋にうれしいです。同時に、音楽家、研究者、教育者としてまだまだ未熟だという自覚もあるので、愛媛大学での役目に大きな責任も感じます。しかし、これまでお世話になった多くの先生方の教えを胸に、また、支えてくれた人に感謝の気持ちを忘れず、新しい環境で邁進していこうと思います。

 

― 音楽をはじめたきっかけを教えてください。
 

子どもの頃の記憶はほとんどないのですが、幼稚園に通っていた時、母の所属していたママさんコーラスの練習会場によく連れられて、そこで自分も遊びながら歌っていたようです。その先生がピアノも教えており、母から習ってみる?と提案されはじめました。小さい時は、よく家でもテレビからの音楽に合わせ歌ったり踊ったりしていたようです。家族はもちろん周りにも音楽に詳しい人はいなかったので、自分が音楽をはじめたのはたまたまでした。クラリネットをはじめたのは高校の吹奏楽部からです。

 

- どうして東京音大への進学に決めたのですか?
 

当初は高校の教員になりたくて群馬大学教育学部音楽専攻に進学しました。そこではクラリネットだけでなく、声楽や作曲なども勉強しましたが、もっと専門的に音楽を勉強しようと思い、お世話になっていた先生に相談し、フランス留学を決めました。フランスではエコール・ノルマル音楽院でギイ・ダンガン先生に習いました。パリでの勉強や生活はほんとうに刺激的でしたが、そこでの学びは感覚的なものが多く、もっと知識の部分でもフランス音楽や文化について学びたいと思いました。そのため実技だけでなく論文指導もしっかりしている東京音大の大学院修士課程に進学を決めました。日本に帰ってきて、東京で活動したかったという気持ちもありましたね。

 

― 東京音大での学び、また音楽の学びが現在どのようなところで役に立っていると感じますか?また、役に立っていると思う授業はありますか?

 

私の場合、修士課程と博士後期課程に限られますが、東京音大での学びは、音楽の見方の幅を広げてくれたことにあると思います。四戸世紀先生のレッスンにおけるクラリネットの表現方法・演奏技術はもちろんそうですが、論文指導で長きに渡ってお世話になった藤田茂先生の授業もとても興味深かったです。音楽作品を分析する上でまず重要な分析理論や方法についての授業や、フランス語の翻訳の仕方とそれぞれの単語や文章に含まれている背景について学ぶ楽書講読の授業は、博士研究をする上でも大事な基礎となりました。また、管楽器の人ではかなり珍しいと思いますが、副科でお箏を内藤久子先生に習いました。演奏をとおして身体的、精神的な所まで日本の音楽を学ぶことは、日本人に脈々と流れる習慣や音楽観に気付くことにもなり、そのことによって、西洋と日本における演奏や音楽に対する考えや態度の違いをより理解でき、専門であるクラリネットの演奏にも大きく役立ちました。

 

― 東京音楽大学の博士後期課程はどんなところですか?

 

音楽界の第一線で研究をなさっている先生方によるご指導を長期的に直接受けられ、多角的な側面から音楽を捉える力が身に付くところだと思います。集団授業である「総合演習」や「共同研究」では、自分の発表に対して、音楽学や音楽教育、作曲など、普段は関わる機会の少ない先生方からも厳しくも本質をつく指摘をバシバシ浴びます。そういった環境にはじめは戸惑いましたが、1年、2年と経つと考える力が鍛えられた実感が得られました。渡辺裕先生の音楽社会学や聴覚文化学からの視点は、演奏畑で育ってきた私にはとても新鮮でした。
実は2021年の博士卒業生インタビューで掲載された鈴木啓資くんと安並貴史くんは博士の同級生で、それぞれの分野で大活躍しており、自分もがんばらないと思わせてくれる存在です。そういったプロフェッショナルな志しをもった同級生や先輩・後輩がいる所も東京音大の良い所だと思います。

 

― 学校生活のなかでがんばったこと、チャレンジしたこと、印象に残っていることはなんですか?

 

博士論文は一番がんばったことだと思います。私の研究テーマは修士、博士とともにドビュッシーですが、博士論文は、専門実技クラリネットから大きく幅を広げ、『ドビュッシーの音楽が「ロシア的」とみなされた歴史的背景 : 当時の言説とドビュッシーの管弦楽法の考察を通して』という題目になりました。ドビュッシーの音楽をロシア的と見なす、当時のパリの人々の感性がどのように形成されていったのか、ドビュッシーの音楽の受容の新しい一側面を明らかにしました。決して順調には進まなかった、この研究の過程で学んだこと、いつも温かく励ましてくださった藤田先生から学んだマインドというものは、これからの研究者としての人生における貴重な財産です。今振り返っても骨の折れる大変な研究でしたが、この大きなチャレンジによって、演奏家としてだけでなく研究者としての覚悟も得られました。私の取得した音楽博士Doctor of Musical Artsには、音楽実践と音楽研究をつなぐ役目があると思っています。先日東京音大研究紀要第46集で発表した論文『パリ音楽院クラリネット科の教育:学習教材の変遷の考察』のように、音楽博士らしい新しい視点でこれからも研究していきたいです。

 

― 東京音大の魅力はなんだと思いますか?

 

私は修士から東京音大にお世話になりましたが、そういった外から来た学生を快く迎え入れ、熱心にご指導してくださる校風はこの学校の魅力の一つだと思います。また、これまでとは違う新しいことや考え方を受け入れ、応援してくださる先生方の柔軟な姿勢や態度も大きな魅力だと思います。

 

― 最後に、後輩たちへメッセージをどうぞ。

 

修士課程、博士後期課程を経て、最終的に気付いたことは、自分は音楽についてまだまだ知らないことだらけだ、ということでした。だからこそ、生涯をとおして、さまざまな角度から音楽を探求し続けたいと、今の私は胸を張って言えますが、それは、一つのことを長期に渡って突き詰めようとした結果による決意だと思います。最近、タイム・パフォーマンス(タイパ)という言葉を聞きますが、音楽の研究は、一般的な尺度からしたら時間対効果が高くないことも多いでしょうし、目に見えた成果や実力がすぐに得られず焦ったり、将来のことで不安になったりすることもあると思います。しかし、学校という守られた環境で、先生方の温かなまなざしの下、音楽に没頭できるのは在学中の特権です。時間と労力をじっくりかけたからこそ見つけられること、磨き上げられたことは、何事に替えられない礎になると思います。卒業した後は、自分の力だけで自分を成長させなければなりません。ぜひ今しかできない、この貴重な期間に音楽と向き合う力を鍛えてほしいと思います。

 

 

(広報課)