2018.12.07
「僕は東京音大しかありえなかったと思います」そう語る博士後期課程に在学中の安並貴史さん。エリソ ヴィルサラーゼ客員教授の公開レッスン生としてレッスンを受けた感想と、2018年11月に行われた浜松国際ピアノコンクールでの経験、東京音楽大学進学のきっかけなどをうかがいました。
Profile
静岡県立清水南高等学校卒業。東京音楽大学、東京音楽大学大学院修士課程を経て、現在は東京音楽大学大学院後期博士課程に特待生として在学中。第13回日本演奏家コンクールピアノ部門 ( 大学の部 ) 優勝。併せてヤマハ賞受賞。第7回野島稔・よこすかピアノコンクール優勝。石井克典、 ガーボル ファルカシュの各氏に師事。
―安並さんと音楽との出会いのきっかけを教えてください。
自分は音楽一家で育ったわけではありませんが、母のすすめと幼少期にリズムを叩くのが好きだったようで、3歳から音楽教室でピアノをはじめました。グランドピアノに出会ったのは6歳のころです。
その後静岡県内で音楽科のある中高一貫校の静岡県立清水南中学校に進学しました。中等部から芸術科があっていろいろな人と切磋琢磨することができました。
高校2年生の時に東京音楽大学の学校見学をし、池袋キャンパスのA館の佇まいがすごく近未来的な感じで、雰囲気もわいわいと楽しそうで、ここで大学生活を満喫できればと思い志望しました。今師事している先生とは東京音楽大学に進学して出会いました。
―現在は博士1年生ということですね。
先日のマスタークラスのお話を伺います。ヴィルサラーゼ先生にはこれまで個人レッスンを受けられたことはありましたか?
東京音楽大学の修士のときに一度個人レッスンを受けました。
―初対面での先生の印象はいかがでしたか?
こんなにかっこいい女性がいるのだろうかと率直に感じました。なんていうんでしょうか、同じ人間だとは思えないような風格、オーラ、出す音といい、異次元のなにかを見ているような感じでした。
―そんな憧れの先生のマスタークラスを受けてみての感想はいかがでしょうか?
今回は前回自分が先生のレッスンを受けた時と違って、公開形式ということもあり、たくさんの方に見られての演奏会のような緊張感がありました。会場となったJ館スタジオは広く、ここでレッスンを受けるのはなかなかない機会でもあり。実践的なアドヴァイスをいただけてよい経験になりました。
―安並さんが感じている東京音楽大学のマスタークラスのよさはなんでしょうか?
多様な先生方がいらっしゃいます。毎年定期的に来てくださる先生も多く、一度レッスンを受けると先生も自分のことを覚えてくださってるので、世界中の先生と出会えてレッスンを継続して受けることができるのがいいですよね。昨年と同じ先生に聴いていただけることで成長の度合いを意識できると思うんです。レッスンの1時間ってすごく短く思えるかもしれないですけど、一流の方からの1時間っていうのは、今一番必要なことを全部教えていただけるので、とてもありがたいです。
―今回のマスタークラスは、学部の「作品解釈」の授業の一環として行われました。学部在学時は作品解釈は受講されていましたか?
ばっちり受講しました。
―どうでしたか?
ものすごくおもしろかったですね。マスタークラスや公開レッスンのみでなく、回によっては音楽の教材の話や、楽譜の原典版とか自筆譜の話とか、音楽の講義は外部でそう簡単に聞けるものではないので。役に立たせるかどうかはその人次第ですが、与えてくださる情報はとても貴重だと思いますね。
―東京音楽大学の授業で印象に残っているものはありますか?
「ソルフェージュ」や「和声」も少人数で深いレベルまで教えていただき、ものすごくためになりました。「音楽形式」の授業はほんとうに濃い時間でした。西村朗先生の「現代音楽の解釈と奏法」も。現代音楽は今までの音楽家が歩んできた足跡を、同じ足どりで戻るという喩えをしていただいたのを覚えています。学部では教職課程も履修していて、中でも教職課程管弦楽は、その経験が今でも演奏に活きていると思います。
―今の博士課程はどうですか。
博士課程は自分自身でやることが修士とは段違いです。例えば「共同研究」という学生が先生方をまじえて講義発表するという授業は、ピアノだけでなくほかの楽器の専攻学生と、いろいろな専攻の先生方との意見が飛び交うので刺激的です。
―充実した日々のなかで、第10回浜松国際ピアノコンクールにチャレンジされたのですね。きっかけは何ですか?
浜松国際コンクールはとても大きなコンクールですので、コンクールの存在は中学生の時から知っていていました。しかし、大学に進学してからも当時は浜松国際をエントリーするような立ち位置にはいなかったので遠い存在だと思っていました。
博士後期課程に入学したタイミングで自分がどうしたいのかというのがカチッとはまってきたので、それまで意識していたコンクールに挑戦することにしました。
―今回のコンクールで苦労したことや得た気づきなどはありますか?
コンクール期間はコンクールに専念することができたのは幸運でした。ですが現在教える仕事もしていますので、練習の絶対的な時間が少ない中で、練習を計画的に組み立てるのがすごく苦手なので苦労しました。
―コンクールを受けるにあたっての大学から受けたサポートなどを教えてください。
練習でA館100周年記念ホールを貸していただき、先生方も多忙な中でもレッスンしてくださり、大学にはとにかく全力でサポートしていただきました。先生方には浜松国際ピアノコンクールは世界的コンクールだから、広い観点で全身で挑むようにと言われていましたね。
―激励を受けながら、挑戦されたんですね。本選に進むと決まった時の感想は?
まさかでしたね。ほかの演奏者の方もすばらしいので本当にびっくりしました。
個人的には演奏だけでなく、プログラムのコンセプトもすごく評価してもらえたと思います。三次予選で博士課程で研究してきたドホナーニを演奏し、やりきったという燃焼感を感じていて、その先がまだあるっていうのはあんまり思っていませんでした。
―本選は2日間にわたって開催され、2日目に結果発表でしたね。
そうですね。結果についてはもちろん悔しさはありますが、6位だから悔しいわけではなくて。本選で弾いたブラームスの協奏曲第2番は過去にもピアノ伴奏でやったことがあったので、その時に比べると自分の完成度が低くなってしまったことが悔しかったです。でも選外だと思っていたので第6位というのはほっとしました。
―ご家族やご友人からの反響はどうでしたか?
反響がすごくありました。それだけ大きなコンクールだったんだなと改めて実感しました。
―いま師事している先生方の感想はいかがでしたか?
ガーボル ファルカシュ先生は配信で聴いてくださって、先生もドホナーニを研究されていたので、いろいろとご意見をくださりました。6位に決まってブラボー!とうれしくなるような言葉をいただきました。
石井克典先生は会場で聴いてくださってたんですが、僕がオーケストラ伴奏の協奏曲ははじめてというのは知っていましたし、僕以上に僕のことを理解してくださっているので。だからこそ以前弾いた時の方がよかったので悔しいと。悔しい思いを共有してくださいました。
―本当にいい先生方ですね。
本当に。この上なくです。
実は修士課程を終了してから2年間社会人を経験しているのですが、石井克典先生からいただいた言葉が自分のなかで残っていたんですね。もう一度しっかり学び直したいというか。なんなら今まで自分はほんとうに学んでいたのだろうかと、深く考えて博士課程に入りました。先生方は本当にかけがえのない大きな存在なんです。
―熱いエピソードに感動しました。安並さんの今後の目標を教えてください。
ピアニストとしてピアノを通していろいろ発信していけるような存在になりたいですね。2018年の活動を通じて、自分の個性みたいなものが自分でもちょっと意識できてきました。自分にしか出せない音を追及する、そういうピアニストになりたいですね。
―大きな目標に向かって頑張ってください。あと数年博士課程で学ばれると思いますが、安並さんが思う東京音楽大学の魅力はなんですか?
すごくいい雰囲気で、明るい中にもいい競争が生まれてるというか。みなさん明るいですから。前向きに切磋琢磨してますね。いい環境のなかに東京音楽大学ならではの雰囲気があります。
特にピアノのコースはいいですね。あたたかくアットホームな空気の中にも時代の最先端を行くような側面もあり、常にわくわくしている感じです。
―東京音大に進学してよかったと思いますか?
自分はもう、ここでしかこうなってなかったと思いますね。僕は東京音大しかありえなかったと思います。もう、満足しすぎて、その幸せに埋もれてしまうような感じで。
―帰るべくして博士課程に帰って来られた感じですね。
そうなっていますね。
―東京音楽大学を受験生に向けてのメッセージをお願いします。
東京音楽大学は毎日どのシーンをとっても楽しく明るいです。それでいて授業の内容はすごく深い所までしっかりやってくださる先生方と、自分を高めようと思えばどこまでも高められる環境がそろっています。だからこそ僕も一度は社会に出ましたが、学びに戻ってきました。
また、学生一人ひとりをしっかりサポートしてくださいます。授業もいろんな種類の授業があります。学内も明るいのでほかの専攻との交流も盛んで、とてもいいキャンパスライフです。来年からはさらに中目黒・代官山キャンパスも開校します。
入学に向けてぜひ頑張って下さい。絶対すてきな大学生活になると思いますよ。
(インタビュー実施日 2018.12.17/広報課)
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